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第15話 野球をしないために生まれた男

「でもそんなタイミングって……」

 誠は早めにその良い人ぞろいの管理部に行ってみたかったが、誠を毛嫌いしている菰田と顔を合わせることが嫌だった。

「それ以前に問題になることがある。アイツは一応、野球部員なんだ。当然今回の合宿にも来るだろう」

 名前を言うのも不愉快だという調子で島田はそう言った。

「菰田さんも野球部員なんですか?ポジションは?」

 誠も自分のことを敵視している菰田と合宿に行きしかも練習に参加することを想像するのは嫌だった。

「そんなもんねえよ。自称『マネージャー』だと。アイツはまさに野球をしないために産まれたような男だからな」

 そう言って島田は下品な笑顔を浮かべた。そこには菰田を心底軽蔑している心の動きが手に取るように見えた。

「『野球をしないために産まれたような男』?それってどういう意味ですか?」

 誠は島田が言った聞き慣れない表現に戸惑いながらそう尋ねた。

「そうだ。アイツに球技は向いてねえ。打てねえ投げれねえ走れねえの三拍子そろってやがる。一度、セカンドを守らせたときに小学生でも捕れるような真正面へのヘロヘロのポップフライを顔面で受けやがった。投げるのもオメエはそれでも男か?って聞きたくなるほどの距離しか投げれねえ。走るのはそれこそ最悪。よく軍に入るときの体力試験をパスしたなって疑いたくなるレベルだ。アイツにプレーで期待するような部員は誰もいねえよ」

 あっさりそう言い切る島田の言葉を聞いて誠に一つの疑問が生まれた。

「じゃあなんで野球部にいるんです?天敵の島田先輩にからかわれ続けるのが落ちじゃないですか。あの人プライドが高そうだからそんなこと許せないと思うんですけど」

 不思議そうに尋ねてくる誠の顔をまじまじと見た後、島田は大きくため息をついた。

「分かってねえなあ、オメエは。カウラさんだよ。アイツは『ヒンヌー教徒』だろ?ぺったん胸のカウラさんにぞっこんだから『何でもやります!だから野球部に置いてください!』って西園寺さんに泣きついて野球部に置いてもらってるの!」

「『ヒンヌー教徒』……変態なんですね。菰田さんは」

 誠はあっさりと先輩である菰田を斬って捨てた。確かにカウラの体形はやせ型の男子高校生といった感じで、胸のふくらみがまるで見えないのは事実だった。

「そうだ、変態だ。まあ、買い出しとか試合の球場を確保するときに役所の前で朝から待ってたりとか、誰もやりたがらないことを喜んでやるからな。西園寺さんも顎で使ってる。あいつもそれで満足してるらしい。カウラさんの役に立ってるって……確かにド変態だな」

 先輩を平気で変態扱いする誠を見て島田は腹を抱えて笑い始めた。

「まあ今回の合宿の唯一の不安要因がアイツだな。ああ、そうだった。合宿の時泊まる西園寺さんの顔の効く高級ホテルまではバスで行くのは知ってるよな」

「あっ!そうだった……僕には不安要素がもう一つありました」

「オメエは吐くからな、バスに乗ると」

 島田に指摘されて、誠には嫌味な先輩の洗礼だけでなく乗り物酔いと言う敵と戦うことになるという事実を突きつけられた。

 ただ誠は困ったような表情を浮かべて、爆笑する島田に付き合うようにしてぎこちない笑みを浮かべた。

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