第13話 走攻守に頼りになる男
「まあ貯金は初任給が出た時から続けてます。それより、僕が投げるとして島田先輩はどこを守るんですか?リリーフですか?」
話を自分の関心のあるところに戻そうと誠はそう言った。
「外野。センターだ。俺がストライクが入らなくなると、監督の西園寺さんが怒ってショートのカウラさんをマウンドに上げるんだ。そん時はセンターに俺が入る。俺の守備範囲には定評があるからな。うちの外野って使えるのが居ねえんだ。だからライトの定位置からレフトの定位置まで俺が捕りに行かなきゃならねえ。足には自信があるから間に合うけど」
島田は得意げに誠に向けてそう言い放った。
「それと当然打順は一番。リーグでも前期を終わって三本の先頭打者ホームランは俺だけだぜ。初回は一点入るから、テメエはその一点を守り切ればいい。外野へ飛んだ球は俺に任せな!……と言いたいところだがライン際に飛んだ球はさすがに俺の足でも間に合わねえ。そん時は諦めろ」
得意げに島田はそう言った。誠から見ても島田の引き締まった身体は走るのに向いているように見えた。そしていつもつなぎを着て腕まくりしているので今も見えている島田の両腕はこれも徹底的に鍛え上げられているので『先頭打者ホームラン三本』と言うのもあながち嘘ではないだろう。
「凄いですね。足が速いとなると……盗塁はどうなんですか?」
先ほどのかなめが整備班に迷惑をかけたことに罪悪感を感じていたので、誠は島田を少し気持ちよくしてあげようとそう言ってみた。
「よくぞ聞いてくれたな!これも今のところリーグ首位。俺を塁に出すと相手のキャッチャーが泣きそうな表情を浮かべるんだ。いい気味だろ?それにフェンスに届かなくても外野の頭を抜ければ普通は二塁打のところが俺の場合は三塁打だ。あとはスクイズで一点。すげえだろ?うちの打線」
さらに島田の自慢話が続く。誠はただそれを黙って聞くしかなかった。
「それに自慢じゃないが俺の肩はまさに『レーザービーム』だ。本塁に突入してくるランナーを何度刺したことか……まあ、うちはキャッチャーも穴なんで、タイミング的にはアウトでも捕球に失敗してセーフってのが結構あるのが残念なところだがな。リーグでもキャッチャーが安定しているチームは上位にいる。中でも『菱川重工豊川』の都市対抗野球OBチームは元社会人チームの正捕手だったおじさんがそこに座ってるんだ。あれは反則だよ」
キャッチャーに泣かされる。それは野球を小さいころからやってきた誠にもよくわかる話だった。特に高校三年の夏の大会でのキャッチャーのパスボールの記憶は誠のトラウマになっていた。
「要は外野にフライを打たせればいいんですね?参考にします」
キャッチャーが穴と言うことは三振を狙えばキャッチャーがパスボールして振り逃げをされる可能性がある。誠もかつてのトラウマになった試合で何度も振り逃げをされたので、島田の言葉からそういう結論を出した。
「うちのキャッチャーは日替わりだかんな。リードなんてあてになんねえぞ。まあ、野球経験の長いオメエなら自分でサインを出すか。心配するだけ損したな」
誠は少しこの『特殊な部隊』のチームに不安を覚えながら自分を褒める島田の言葉に照れ笑いを浮かべた。