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みんなが目をそらす

クラスのみんなが目をそらすので、私に何か隠しごとがあるのは、バレバレだった。
「ちょっと、何で、目を合わせないのよ」
「え?」
「おはようの、挨拶ぐらいしてもいいでしょ。まさか、高校生にもなって、いじめのつもり?」
「え、知佳? 本当に知佳なの・・・」
「なによ、友達の顔を忘れたなんて言うつもり?」
「だって、知佳、ずっと学校に来てなくて・・・」
「あたしが? ずっと来てなかった?」
「そうだよ、それに、なんで、夏服来てるの?」
「え?」
「おい、いつまで立ってるんだ、すぐ朝のホームルーム始めるぞ」
「あ、先生」
「ん? な、中村、なんでお前が・・・」
「なんで、先生まで、まるで死人でも見たみたいに目をそらすんですか」
私は、カッとなって、担任にずかずかと近づいていった。
「ひっ!」
先生は目をそらすどころか、怯えるように後退った。
「く、来るな、来るな。悪かった、俺が悪かった。だが、お前が、先生との関係をみんなにばらすというから、仕方なく、お、おい、だから、悪かったって、こっちくるなよ」
私が近づくと、先生は殺人鬼から逃げるように教室の窓に向かい、校舎三階の教室の窓を開けて、慌てて飛び降りた。
アッと思い、地面に頭から叩きつけられた先生の遺体を見て、私は、ハッと思い出した。自分がもう死んでいて、私と先生がこっそり付き合って、私と結婚しないと先生の奥さんにこの隠しごとをバラすと脅して、逆上した先生に殺されて、それを忘れたまま幽霊として今日、登校して、今、先生を追い詰めて、殺してしまったのだとようやく気づいた。クラスのみんなが私に隠しごとがあって目をそらしていたわけではなく、見える人が限られていたからだとすべてを理解すると、私は肉体から離れたばかりの先生と一緒にあの世に旅立った。

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