第10話 すっかり金に目がくらんで
「話題を変えてるつもりはねえんだが……まあ良いか。唐揚げか!俺の好物なんだ!」
弁当箱の箱を開けた島田が嬉しそうにそう言った。誠はその歓喜の表情を見るとため息をついた。
「島田先輩!やっぱり話題を変えてるじゃないですか!『密輸』ですよ『密輸』!どうせ税関通さずに『軍事機密物資』とか名前を変えて運んだんでしょ……そんなこと警察がやっていいんですか?うちって一応『軍事警察』なんですけど」
弁当のふたを開けて叫ぶ島田を誠が追い詰める。
「確かに『密輸』だよ。『軍事機密物資』ということで遼州系に駐留している米軍経由で運んだのも当たり。でも、それなりに良い金額提示してくれてたんだ。しかも、その輸送にかかる賄賂とかの諸費用も全部相手持ち。いいはなしじゃねえの。しかも車の本体価格はそれこそ目玉が飛び出るくらいの金額を提示してくれたんだ」
島田は唐揚げを口に運びながら当時の金に目がくらんだ自分を反省すること無く、逆に自慢するかのように誠にそう言った。
「それにだ。テメエが以前拉致られた時にそれを指示したのはイタリアの宝飾品を密輸しているマフィアじゃねえか。アイツ等なんて銀座通りに堂々と店舗まで出してたんだぜ。それに比べたら俺達のやってることなんてかわいいもんだよ。うちは店までは出してないぜ、看板も掲げてない。隠れてやってるんだ。悪いことをしている自覚もある。随分マシだろ?連中より」
「そんなマフィアのやってることと警察のやってることが同レベルだったら世の中おかしくなっちゃいますよ!」
誠は島田の自分勝手な理屈に文句を付けながらも、誠が部隊に最初に迷惑をかけた自分が『法術師』狩りをやっていたマフィアに拉致された事件のことを持ち出されると、照れ笑いを浮かべた。それでも誠は持ち前のまっすぐさから目の前のヤンキーに騙されまいと追及を続けた。
「それはそれ。これはこれです。それにうちは一応『武装警察』でしょ?警察官が自ら『密輸』なんてして許されるんですか?許されないでしょ?それにですよ。地球圏ではガソリンエンジン車の使用が禁止されているはずです。その買った人は何に使うんですか?」
真剣な様子で誠は矢継ぎ早に弁当を掻きこむ島田に向けてそう尋ねた。島田は唐揚げをのどに詰まらせて
「そりゃああんだけの大金を現金で用意できるなんてご仁だ。自分の家の庭にサーキットでもあるんじゃねえの?地球圏だって私有地でガソリン車乗るのは自由だって聞いてるぞ」
部下が差し出すお茶を飲んで一息つくと島田はそうつぶやいた。
「結局その売り上げた大金っていくらだったんです?入ったお金に対して税金は払いました?『密輸』ですよね。払ってないでしょ。それこそ警察が所得税の脱税までしてたらシャレにならないですよ」
誠は梅干を口に運ぶ島田を詰問した。
「運送費と諸経費込みで千二百億円。ああ、所得税脱税はしてねえぞ。密輸ってことを伏せて隊長が紹介してくれた良い税理士に申告をお願いしてそのうち八百億を税金に持っていかれた。ひでえ話じゃねえかこれじゃあ手元に四百億しか残らねえ。作り損だぞ、まったく」
本来は『部隊の技術の向上のため』に始めたはずなのに島田の頭の中は金のことで一杯になっていた。
「それでも四百億もあるじゃないですか。そのお金……どうしたんです?全部島田先輩が個人的にバイクの部品に使ったんですか?使いきれないですよね?どうしたんです?」
誠は司法局の一員らしく、犯人を自白させるような気分で島田を追い詰めた。
「いやあ、隊長に税金のことで相談した時にクバルカ中佐に事がすべてバレてね。『俺達の金だ』って言ったのに『これを作るのには部隊の備品を使ってる!この金は部隊の金だ!』って言われちゃって……」
意外な話だったが、いかついヤンキーにしか見えない島田はあの『永遠の八歳児』クバルカ・ラン中佐には頭が上がらなかった。島田が時々しでかすバイク泥をはじめとする違法行為をすべてランがもみ消していてくれるおかげで島田はまだ
「結局、クバルカ中佐に取り上げられたんですか……それにしてもそんな大金があるのに何でうちは予算が無いんです?四百億あればシュツルム・パンツァーの中古くらい買えますよ」
誠は何かあると予算不足だと言われて諦めさせられていることを思い出してそうつぶやいた。
「その金は一般予算には組み込まれてねえよ。『福利厚生費』の『予備費積立金』としてプールされてる。だからこうしてこうして次の車を作ることができるんだ。今回の西園寺さんとアメリアさんの企画した合宿の半分もそこから出てるんだぜ。野球部の一員のオメエには感謝してほしいくらいだ」
島田は今度は恩着せがましい調子で誠に向けてそう言ってきた。
「福利厚生費が四百億ある部隊……なんですかそれ。聞いたこと無いですよ、そんな話」
誠は想像もつかない金が実はこの部隊には自由に使えるお金として眠っていると聞かされて驚きを通り越して呆れるばかりだった。