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第6話 誠には厳しい『バス旅行』

「これで、小夏ちゃんと春子さんが来て……この人数だとバスは一台で済みそうだけど……」

 アメリアはそう言いながら誠を見つめる。

 全員の視線が誠に向いていた。

 誠はひどい乗り物酔いをする癖があった。

『近藤事件』への出動前に運用艦『ふさ』の母港多賀港へ向かうバスの中でも誠は吐しゃを続けた。さらに『ふさ』に乗艦したらしたで、今度は宇宙酔いで一週間にわたり医務室に監禁される羽目になった。

 まず誠はその乗り物酔い体質から旅行というものをしたことが無かった。それどころか用があって近郊まで電車で移動するだけでも途中で何度も気分が悪くなって降りるということでその移動には異常に時間がかかる困った体質だった。

 正規のパイロットであるにも関わらず戦闘用人型兵器『シュツルム・パンツァー』のシミュレータの中でも誠は時々気分が悪くなったと吐しゃすることがあった。『近藤事件』で『那珂』を撃沈した時もきっちり嘔吐していた。

 隊では誠のことを『もんじゃ焼き製造マシン』と呼んでいた。

 そんな自分の体質が迷惑をかけることになるのはわかっているので誠は弱弱しい声で説明を始めた。

「『近藤事件』の時にクバルカ中佐特製の薬局では手に入らない強い酔い止めを飲めば……大丈夫ですよ……たぶん……それにあれからシミュレータの中で吐く回数も減ってますし……月島屋に飲みに行くときはカウラさんの『スカイラインGTR』に乗せてもらってますけどあの中で吐いたことは無いじゃないですか!今回も大丈夫です」

 そう言ってみる誠だが全く自信は無かった。

「誠ちゃんは吐く生き物なのよ……猫だって毛玉吐くし」

「アメリア、それはフォローになってねえぞ」

 笑っているアメリアにかなめがそうツッコミを入れた。

 明らかにうんざりするような視線を投げてくる全員を見ながら、誠はただ愛想笑いを浮かべることしかできなかった。

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