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第4話 『ビックブラザーの加護』の消失

「冗談はさておき、機動部隊長は大変なんだよ、いろいろと。なんと言っても『近藤事件』で『ビックブラザーの加護』が意味をなさなくなったのが痛え。後々の戦術を根本から考え直さなきゃなんねーんだ」

 誠は『近藤事件』で誠達を勝利に導いた『ビックブラザーの加護』が消失したというランの言葉に驚いた。

「『ビックブラザーの加護』ってあれですよね。すべての兵器にウィルスを製造段階でウィルスを仕込んで東和国民を攻撃しようとすると自爆させるという……あれのおかげで『近藤事件』では二十倍の敵相手に勝てたんですけど……どうして意味をなさなくなったんですか?」

 『近藤事件』において、決起した巡洋艦『那珂』を旗艦とする近藤中佐の艦隊の保有するシュツルム・パンツァーは百機を超えていた。それを『特殊な部隊』の保有するたった四機のシュツルム・パンツァーで撃退できたのは、誠やカウラのような東和国籍を持つパイロットに攻撃を行うとシュツルム・パンツァーの持つミサイルや実弾兵器が自爆するという『ビックブラザーの加護』が一役買っていたのは事実だった。

「考えてもみろや。これまでここ東和共和国は戦争をしたことが無かった。東和国軍の兵器に銃を向けるような馬鹿は一人も居なかったんだ。だから東和国民が『ビックブラザー』の意志でその命が保証されているなんて誰も知らなかったんだ」

 ランは真剣な表情で社会常識に疎い誠にそう語り掛けた。

「でもよー、今回の『近藤事件』で『ビックブラザーの加護』で自国の兵器が東和共和国軍相手には通用しないことは全宇宙にバレちまったんだ。その事実を知った各国軍は自国の兵器の制御システムの総点検をしているだろう。当然、ウィルスが発見されてワクチンが開発される可能性が高い。そうなれば『ビックブラザーの加護』は終了だ」

 相変わらず一人困ったような表情を浮かべて八歳幼女にしか見えない小さなランはかわいらしい小さな右手でペンを回していた。

「確かにそうですね。自軍が攻撃されないと知ってる東和共和国が侵略戦争を始めるという可能性が無いとは言えませんから。でも、東和の国是は『武装中立』で『いかなる戦争にも関与しない』って言うものでしょ?」

 平和ボケした誠の言葉にランはあきれ果てた表情を浮かべた。

「あのなー。軍人って職業はあらゆる可能性に対応しなけりゃいけねーんだ。東和がその国是を(ひるがえ)して侵略戦争を始めることも当然その想定の中にある。それに対応するためにも『ビックブラザー』が仕込んだウィルスの駆除をしなきゃなんねー。それに東和共和国の経済力は地球圏から見ても魅力的と言うより脅威だ。東和共和国を侵略するプランも考えてる国もあるかも知れねー」

 恐ろしいことを言いだす『永遠の八歳女児』、クバルカ・ラン中佐の言葉に誠は冷や汗をかいた。

「じゃあこれからはこんな戦力差の戦いがあったらどうするんですか?僕の『法術』で全部の敵を薙ぎ払えって言うんですか?無理ですよ、そんなの」

 誠は自分の専用機『05式特戦乙型・愛称ダグフェロン』を駆って近藤の乗艦である『那珂』のブリッジをその専用軍刀と誠の持つ『法術』の発する『光の剣』を発動して一撃で破壊した。

 ただ、それは一隻の巡洋艦のブリッジを破壊しただけである。何十隻と言う大艦隊が相手となれば話は違ってくる。誠は『那珂』のブリッジを破壊した段階で力を使い果たして気を失っていた。

「確かに『ビッグブラザーの加護』が無くなるのは苦しいが、『法術』の存在が公表された現段階では攻撃的な動きを取る勢力の存在があることは考えにくいな。東和共和国は『法術師』の素養を持つ遼州人の国だ。神前だけが『法術師』であると考えるほどどの勢力も馬鹿じゃない。『法術』の研究をして十分に対策を立てなければ動くことは出来ないだろう。それまでの間は遼州系は平和なはずだ」

 それまで黙って誠とランの会話に耳をそばだてていたカウラは顔を上げてそう言った。

「つかの間の平和って奴ですか……僕がもたらした」

 誠はカウラの言葉にどこか引っかかるものを感じながらそう言った。

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