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第2話 カウラの秘めたる思い


 しかしそのままアメリアがニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくるのでカウラは少しばかり後ずさった。

「カウラちゃん!あなた『近藤事件』の後、誠ちゃんに『一緒に海に行って欲しい』とか言ってたそうじゃないの。運用艦『ふさ』が母港の多賀港に着水する時に誠ちゃんと一緒にその様子を展望室に居たのも私は知ってるし、その『もんじゃ焼き製造マシン』体質から旅行に縁のない誠ちゃんが海に感動するのを見て、そのどさくさに紛れてそんなこと言うだなんて……」技術部の大尉殿がきっちり盗聴してんのよ。私達が居ない所でそんな発言するなんて……油断も隙も無いわね。じゃあ、そのシチュエーションを私が作ってあげようって言うの。当然、私達も同行させてもらうわよ。二人っきりになんてさせるもんですか!」 

 アメリアの言葉は実働部隊の他の隊員の耳も刺激することになった。一同の視線は自然と頬を赤らめて照れるカウラへと向けられた。

「それは……その小隊長として隊員の体質を考慮に入れてだな……神前は海まで移動する間に何度も乗り物酔いで吐く。その始末を誰かがしなければならない。それを上官として勤めようと……」 

 カウラは口ごもりながらなんとか自分の言葉の意味を正確に説明しようとした。見事なエメラルドグリーンの髪を頭の後ろで結んでポニーテールにしている彼女もまた戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』である。比較的表情が希薄なところから彼女は少し人造人間らしく見えた。そんなカウラが珍しく顔を赤らめ羞恥の表情を浮かべている。

 誠はそんなカウラを見ながらことが『人間拡声器』の異名を持ち、口の軽さでは天下一品のアメリアにバレていたことを知って冷や汗をかきながら机に突っ伏した。

「なんだよカウラにそんな感情があるなんて意外だったな。神前、良かったなテメエモテてんぞ」

 組み上げた銃に銃弾の入ったマガジンを叩きこみながらニヤニヤ笑いのかなめがそう言った。

「それはそんな意味で言った発言ではない!神前は旅行に行ったことが無いと言う話だったから『ふさ』の母港の漁村以外の海を見せたいと思っただけだ!決して私は神前に好意を持ったりなどしていない!」

 カウラは真顔のまま強い調子でかなめの言葉を否定した。真っ赤になって否定されればそれなりに筋があると思っていた誠だが真顔で否定されるとさすがの誠もいじけるしかなかった。

「まあ、カウラちゃんにはまだ色恋沙汰は早いかもしれないわね。それでもまあ、カウラちゃんも少しは感情的に成長してきているみたいだし。おねえさんとしては一安心だわ」

 ここにいるラスト・バタリオンの中で一番稼働年数の長いアメリアがそう言って笑顔を浮かべた。

「真顔で否定されるとね……」

 誠はカウラに海に行きたいと言われた時、自分に好意を持つ人間の初めての登場だと浮かれていたので少しがっかりしたようにそう言った。

「神前君、次の展開は期待しないほうがいいわよ。アメリアにことがバレた以上ややこしいことに巻き込まれて損をするだけだから」

 いつもアメリアが起こす騒動の後始末を押し付けられているパーラの言葉は妙に説得力があり、て追い詰められた誠に止めを刺した。

「いいですよ。僕はモテない宇宙人『遼州人』ですから。最初からカウラさんが僕に好意を持っているなんて期待してはいません」

 そう言って誠は強がってみせる。期待が大きかった分、落ち込みもまた大きかった。

「でもさっきまで少しは期待してたんじゃないの?」

 こういう時には図星を突いてくるアメリアがそう言って誠の肩をつついた。

「期待していません!」

「無理言っちゃって……」

 否定して見せる誠を相変わらず銃を手にして下品な笑みを浮かべながら、その独特のたれ目でかなめは見つめながら誠を冷やかした。

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