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321 ジン=シャイターン

 ジンの、ウテナに殴り飛ばされた顔が、再生する。

 その灰色の肌は、人間の持つ柔肌と似ていながら、それでいて、石のような冷たく硬い質感をもあわせ持っているように思われた。

 ――ムクムクムク……。

 羊の持っているような、白く太めの巻き角が、ジンの、再生した灰色の頭の上部から生えてきた。

 ――スッ。

 頬の上、横向きに、ダガーで軽く切ったような線が入る。

 ――ギョロ……。

 その線が開き、光沢のある赤い眼球に、クリーム色に淡く光る瞳がむき出てきた。

 その目が、ウテナを見、その後、オルハンに向いた。

 「目が……!」
 「こ、これは……!」

 ウテナとオルハンは危険を察した。サッと身を引き、ジンから離れる。

 「どうしましたか。私の真の姿が、見慣れないですか」

 ――バサッ。

 ジンの背後から、コウモリのような、大きな、骨ばった、自らを包み込めるほどの大きさのある灰色の翼が、右肩片方だけ生えてきた。

 「つ、翼!?」
 「いよいよ、化けの皮を……!」

 ウテナとオルハンが構え直した。

 「真の姿ってヤツか……!」

 オルハンが、半分以上、マナトの面影を残しながら、灰色に再生した顔、そこから生えた巻き角、むき出てきた赤い眼球の目、そして、右肩に生えた片翼姿のジンへ言った。

 「ジン=グールじゃない……」

 ウテナもまた、目の前にいるジンが、かつて砂漠で遭遇した、黒地に緑色が脈打つ触手を持つジン=グールと違う形状であることを感じていた。

 「それに……」

 前にジン=グールと遭遇した時に感じた、食べられる側としての恐怖感は、目の前のジンには、なかった。

 「いや、むしろ……!」

 ……ジン=グールのときには、感じることのなかった、別の恐ろしさ。

 「クソッ、なんだあの赤い目……俺たちを軽蔑してやがる」
 オルハンが言った。

 ……そう、軽蔑の眼差し。

 目の前のジンから、感じ取れるもの……それは、どこまでも人間を蔑んでいるような、弄んでいるような、ジン=グールの時のそれとは違う、感情。

 敵への、完全なる、嫌悪感。

 「あなたは、いったい、何者なの……!」

 問いかけるわけでもなく、また、怒声を発するわけでもなく、ウテナはただ、言った。

 「私ですか?シャイターンですよ」

 ジンは、笑顔で答えた。

 「もう、終わりにしましょうか……」

 ――ヒュン!

 ジンがオルハンにダガーを投げた。

 「右腕が……!」

 そのダガーを投げた腕も、再生した顔と同じく、灰色の輝きを放つそれになっていた。マナトの腕よりも少し長く、骨ばっていて、手の指の先の5本の爪は、長く、先は細く鋭くなっている。

 「へっ!そんなの!」

 ウォーターアックスで、ダガーを叩き落とす。

 「あ……?」

 オルハンの目の前に、ジン=シャイターン。

 ――ズァァ……。

 ジンの右手の、鋭くなった爪がオルハンの身体を切り裂く。オルハンの胸から腹にかけて、鮮血が飛んだ。

 「!!」

 反射的に、ウテナは跳躍していた。

 「殺す!!」
 「……」

 ジンの翼が動いた。

 ――ゴッ。

 「あ……」

 ウテナのあごに、ジン=シャイターンの、灰色の翼の骨ばった部分が、完璧に直撃した。

 ……いいの、もらっちゃったぁ……。

 「あなた達は、殺さないですよ?」

 意識が遠のく中、微かにマナトの声が、聞こえてくる。

 「まだまだ、この国で、盛大に、躍り狂って……」
 「いたぞ!!あれ……取りか……」

 ……ルナの、お父……さ……?

 そして、目の前が、真っ暗になった。

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