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第212話 無情にも聞こえる『非恋愛宣言』

「だがな、言っとくことがある」

 
挿絵


 ランはそう言ってまじめな表情を浮かべた。

「アタシは見た通り『八歳女児』だ」

 ここで誠は思わずこけるところだった。飲酒が趣味の八歳児など聞いたことがない。それ以前にランの態度は八歳のそれでは無かった。

「八歳女児の部下っていえば、当然上司に配慮するべきだな……うん、うん」

 なぜかここでランは大きくうなづいて一人納得していた。

「どんな配慮をすれば……」

 誠はどんな無理難題を押し付けられるかを気にしながらちっちゃな上官の顔色を窺った。

「そんなの決まってんじゃねーか!」

 ランはカッと目を見開いて誠を指さした。

「一人前になるまで恋愛禁止!ちっちゃい子の前で変なことして教育上よくねーとか思わねーのか?」

 『自称三十四歳』とは思えない発言に誠は唖然とした。

「今は相手がいないから問題ないですけど……でも結構うちは美人が多いじゃないですか」

 誠の言い訳にランは全く耳を貸さなかった。

「すべては一人前の『(おとこ)』になってからの話だ。それまではひたすら技術を磨け、心を磨け、学べ、考えろ!そん時はアタシがオメーにふさわしい女を紹介してやる。うちの女共はどうかしている。アタシのメガネにはかなわねえ!」

 もうこうなると禅寺の修行の境地である。

「クバルカ中佐無茶苦茶言いますね……でも隊長は一人前なんですか?駄目なとこだらけじゃないですか。あの人だって結婚してたんだから僕が恋愛したっていいじゃ無いですか!」

 誠は腑に落ちないというようにそう口答えをしてみた。

「あの駄目人間を見てアタシは悟ったの!あーなっちゃダメなの!それにあれでも一応アタシの上司だし、娘に管理されて、何とか人並みの生活を送れているんだから……とても参考にはならねーだろ?『女好き』のお守は一人で十分!これ以上面倒は見れねー」

 そう言ってランは立ち上がる。

 彼女は静かに扉の所まで行くと、勢いよく扉を開いた。

 そこには当たり前のようにかなめ、カウラ、アメリアの三人が立っていた。

「と言うわけだから。こいつにちょっかい出すのは加減しろよ、オメー等も」

 そう言ってすたすた去っていくランを見ながら三人は顔を赤らめた。

「なんであんなこと言うんだ?神前はアタシの下僕なんだぞ?なんで下僕にそんな感情を持つんだよ」

 かなめはそう言いながら椅子に腰かけている誠に近づいてくる。

「私は指導をしてやっているだけだ。神前に気があるとか……そういうことは絶対にない!」

 カウラはそう断言してかなめに続いて部屋に入ってくる。

「私は……面白ければ全部ОKなんだけど!誠ちゃん!改めてよろしく!」

 笑顔のアメリアを見上げながら誠は大きくうなづいた。

「つー訳だから……よろしく頼むぞ!神前」

 ランはそう言いながらいい顔で笑った。

『特殊な部隊』での誠の『特殊な戦い』が今始まろうとしていた。
 

                                      了

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