彼女の最期の願い
あの夏、幽霊になった彼女に頼まれて、彼女の父親を殺した。生前、実の父親にひどい虐待を受けていて、恋人だった俺にも死ぬまで、本当のことを打ち明けられずに彼女は自殺した。生きている時に打ち明けたら、俺が虐待内容にドン引きして別れると思ったらしい。で、恋人である俺にも相談できずに悩みぬいて彼女は死を選び、死んでから、幽霊となって父親から解放されても、その恨みのせいで成仏できなかった彼女が幽霊となり、その恨みを初めて俺に打ち明けた。
確かに、彼女の父親の虐待内容はドン引きするものだったが、俺はふつふつと怒りが込み上げて、その怒りのままに彼女の父親を殺した。計画性もなく、突発的に殺害したのが良かったのか、警察は、俺を犯人とは疑わず、俺も幽霊に打ち明けられて怒りが込み上げて殺したなんて自首もできず、殺人犯として捕まることなく、誰にも話せないひと夏の思い出となって、もうすぐ俺は別の女性と結婚する予定だった。
殺人を犯した良心の呵責は多少はある。でも、あの夏、俺が彼女の恨みを晴らして、彼女が成仏して、スッと消えていく光景は、俺にとっては忘れられない夏の情景だった。