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第188話 とどめの一撃

「本当に飛び込めば『那珂』のブリッジ前まで行けるんですね?」

 もう半分やけくそだった。他の人ならかっこよく覚悟を決めるところだが、誠にはそんな度胸は無かった。

『そうだ、アタシが座標を設定しといた。安心して跳べ。それと『ダンビラ』を引き抜いて、『那珂』のブリッジ前で『(つるぎ)よ!』と念じながら叫ぶといーことあんぞ』

 ランはそう言って風格のある笑みを浮かべた。どう見ても八歳女児のその『風格』に誠は苦笑いを浮かべた。

「うわー!」

女性陣に強制されて、仕方なく誠は自分の生成した『干渉空間』に機体を突入させた。

 誠は『干渉空間』に突入するときに恐怖から目をつぶった。

 一瞬の衝撃が誠を襲った。そして、目を開くとすでにそこには『那珂』のブリッジがあった。

 驚いている暇など誠には無かった。

「『ダンビラ』を引き抜いて!」

 先ほど上司のランから言われた通り、左腰に装備された高温式大型軍刀、通称『ダンビラ』を引き抜いた。

 誠は『那珂』のブリッジに目をやる。

 ブリッジでは目の前に突然現れた05式特戦乙型の姿に驚愕して混乱に陥っているようだった。

「『(つるぎ)よ!』」

 誠はそう叫んで利き腕の左手を軸に一気に『那珂』のブリッジに斬りかかった。

 すぐに誠はその『異常』に気づいた。

 自分の叫び声とともに『ダンビラ』は青白い炎のように見えるものに包まれた。そしてそのままそれを振り上げ、一気に『那珂』のブリッジを右から左に払うように振ると、『那珂』のブリッジはその青白い炎に飲み込まれた。

 興奮から覚めた誠が『那珂』のブリッジのあった場所に目をやると、そこには爆炎を上げる『那珂』の船体があるばかりだった。

「嘘だろ……これは僕がやったのか?」

 誠にはそう言うのが精いっぱいだった。すぐに食道を胃からの内容物が湧き上がってくる感覚が誠を捉えた。

 とりあえずコックピットにエアーが満たされていることを確認すると誠は慌ててヘルメットを脱いだ。

 誠の脳裏に浮かぶ無念に死んでいく多数の死者の怨霊を想像するとそのままシートの脇の小型コンテナから『エチケット袋』を取り出して嘔吐した。

 誠の機体の背後ではランとかなめが『那珂』の外に出てきていた近藤一派のシュツルム・パンツァー飛燕を一機一機仕留めているところだった。

 胃の内容物を一通り吐いた誠は視線を標的に向けた。『那珂』の船体にはほとんど被害は無いが、ブリッジは完全に消失していた。

『ハハハっハ。やっちゃいました』

 吐くものを吐いて落ち着いてきた誠は力なくそう言った。



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