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第182話 国士によって生贄として捧げられるもの

 絶望的表情を浮かべていた近藤の頭に一つのひらめきが沸いた。

「そうだ……『東和共和国』の国民でなければいいわけだな……丁度いいのがいる……」

 そんな独り言を言った近藤は索敵担当のレーダー担当者のメガネの大尉の肩を叩いた。

「アクティブセンサーの感度を上げろ!こちらが丸見えになってもいい!兎に角センサーの感度を性能限界ギリギリまで上げるんだ!」

「そんな!『ふさ』の主砲の射程範囲内です!そんなことをしたら、この艦の正確な位置が敵に割り出されます!それこそ旧式で射程の短い『那珂』は敵に一方的に撃沈されます!」

 メガネの大尉はそう言って反論した。

「そんなことは分かっている!無茶は承知の上だ!せめて、あの『民派』の首魁(しゅかい)、宰相・西園寺義基の娘、西園寺かなめを道ずれにしてやるのが我々にできる最後の抵抗だ。あの娘の国籍は甲武だ!いくら光学迷彩とジャマーで隠れていようがセンサーの感度を上げれば引っかかるはずだ。そしてその位置にそこにこちらのミサイルをあるだけバラまけば……いくら装甲が厚い05式でも無事では済むまい?」

 艦橋の全員が静かに頷いた。

 もはや、彼等には『処刑』を免れる手段は無かった。せめて、あの女王様気取りの素行不良の女サイボーグを血祭りにあげて、『貴族主義者』の意地を故国に見せつける以外にできることは残されていなかった。

 彼等は最初から自分達が『捨て石』であることを知っていた。そしてそうなることに誇りを持っていた。その矜持(きょうじ)だけでこの戦闘の一方的な敗北に耐えてきた。西園寺かなめを抹殺することでその矜持だけでも示すことができれれば勝利に等しい。ブリッジにいる同志達の心はそのことで一つになった。

「この国の形を変えてしまおうという国賊の娘だ。死んで当然だろ?それにあの娘の所業は故国でも知れ渡っている。そんな女の死に同情する馬鹿など誰もいないよ。道連れにしてやる……売国奴め」

 近藤の心にはすでに迷いは無かった。


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