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第181話 最初から決まっていた『敗北』

「敵正面の友軍機……全機自爆しました……」

 第六艦隊分遣艦隊旗艦『那珂』の狭いブリッジに通信士の悲痛な言葉が響いた。

「近藤さん……」

 艦長は複雑な表情で事態を黙って見つめていた近藤中佐に声をかけた。

「まだだ……例え『ビッグブラザー』が立ちはだかろうとも我々が正面だけに戦力を配置していると思ったのか?クバルカ・ラン中佐。『人類最強』と名乗ってはいるが……やはり見た目通りの八歳女児と言う所かな……」

 近藤はそう言って、艦橋に映し出される画面を眺めた。そこには彼の呪うべき敵、『ふさ』の背後からの映像が映っていた。

「馬鹿が……正面の機体は『(おとり)』だよ……あの馬鹿な幼女とおしゃべりをしている間に展開させた……さて……仕上げといくかね?母艦を沈められたらさすがの『飛将軍(ひしょうぐん)』も手も足もでんだろうて」

 そう言って近藤はうなづく。

「『国士』各機……攻撃よろし……」

 通信士がそうつぶやいた瞬間、『ふさ』の背後を映していた画面が途切れた。

「なに!」

 近藤は叫び、そして舌打ちした。回り込んだ友軍機が次々と爆発する光景が拡大された映像で見て取れた。そこには同志の機体が自爆した様子が映し出されていた。

「『ビッグブラザー』……意地でも『東和共和国』には手を出させんと言うつもりか……そうまでして自国の利益だけを守って……」

 艦橋にいる全員が悟った。『ふさ』には多数の『東和共和国』の国籍を持つ『特殊な部隊』の隊員が乗っている以上、『東和共和国』の戦死者をゼロにすることだけを考える『ビッグブラザー』の電子戦の魔の手からは逃れることができないということを。

「確か、クバルカ・ラン中佐も『遼南共和国』から亡命後、『東和共和国』の国籍を取って東和共和国陸軍からの出向と言う形であの『馬鹿集団』の指揮をしているとか……我々にはもう……」

 艦長の言葉にはもう希望の色は残ってはいなかった。

「このままで終われるか……我々は『狼煙(のろし)』とならねばならん……後ろに続く同志達のためにも……一矢報いねば……死んでいった同志達が報われない……」

 機動性に欠ける司法局実働部隊の05式の戦線到着にはまだ時間があった。


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