第180話 奇妙な現象
「来ましたよ!カウラさん!逃げてください!カウラさんの機体のECMも万能じゃ無いんです!」
狙われるとすれば一番先頭を行くカウラの機体である。戦場でのECMなど甲武軍も想定している。ECM対応を行えば敵も武装の貧弱な電子戦用のカウラの機体を狙ってくることくらい軍に入って間もない誠にも想像がついた。
『安心しろ、神前。連中は私を『攻撃する意図』を示したとたんに吹き飛ぶ。『ビックブラザー』の加護でな』
冷静にカウラはそう言い切った。
火龍の売りである肩の重力波レールガンがカウラの機体を捉えた瞬間にそれは起こった。
一機、また一機と敵機は『自爆』した。
次から次へと発砲を繰り返す敵機が自爆する様に誠は恐怖を覚えた。
「何が……何が起こってるんですか?それと『ビックブラザー』の加護って何です?」
誠は突然の出来事にただ茫然としていた。カウラの言った『ビックブラザー』の加護の意味が分からず次々と自爆していく敵を見つめる誠だった。
『貴様が今見ているのが『ビッグブラザー』の加護と呼ばれるものだ……東和国民の死を『ビッグブラザー』は望んでいない。だから、攻撃の意志を示したとたんに攻撃する敵にハッキングを仕掛けて全機能を掌握し自爆させる。それが『ビックブラザー』の加護だ』
カウラはそう言って最後に残った敵機に指向性ECMのランチャーの銃口を向けた。その強力な電子攻撃は精密機械の塊であるシュツルム・パンツァー・火龍の動きを封じた。
『東和共和国の戦争参加を良しとしない『ビッグブラザー』は、兵器が製造される段階で通信の通じるすべての勢力のコンピュータに『ウィルス』を仕込んでいるんだ。普段は『デジタルコンピュータ』では解析不能なそのウィルスは東和共和国所有の機体を攻撃する意図を示した瞬間に全システムに感染して機能を暴走させるんだ。ミサイルや実弾兵器なんか積んでたら最後だな。そいつがどっかんと爆発して終了するわけだ』
その一方でランは『紅兎』弱×54をすべるように侵攻させて動けない敵機を一刀のもとに真っ二つに切り裂いた。有人と思われるその機体も次々とランに撃破されて行った。
『東和国民に攻撃の意志を示したドローンを操作していた機体に待ってるのは生命維持装置を切られての窒息死だ。窒息死は……つれーだろ?楽にしてやったぞ』
ランの言葉に誠は以前アメリアから聞かされた『ビックブラザー』の恐ろしさを再認識した。