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第173話 誠への言伝

『忙しいとこ悪いが、いいか?』 

 ロングレンジレールガンの装弾を終えたのか、島田からの通信が管制室から入った。

『神前。テメエに伝言だ』

「誰からですか?」 

 心当たりの無い伝言に少し戸惑いながら誠はたずねる。

『まず神前薫(しんぜんかおる)ってお前のお袋か?』 

「そうですけど?」 

 誠は不思議に思った。去年のお盆も、年末も、誠は母親がいないことを確認してから実家に荷物や画材、イラスト用の画材などを取りに帰っただけで、会ってはいなかった。

『ただ一言だ。『がんばれ』だそうだ』 

『なんだよへたれ。ママのおっぱいでも恋しいのか?』 

 かなめが悪態をつく。誠はその言葉に照れてヘルメットを軽く叩いた。

『ビビったらそれで終い。それが戦場だ』

 誠は全天周囲モニターの中のサイボーグ用のヘルメットにバイザーが付いたかなめの姿を見つめていた。

 なんとなく口元に『侮蔑(ぶべつ)』の笑みを浮かべているかなめに誠はそう言った。

『テメエに期待するのはビビった様子を見せねえことだけだ……将棋の駒のつもりで前だけ見てろ』

 かなめの表情はバイザーに隠れていたが、誠はその言葉に静かにうなづいた。

『神前……ちっこい姐御はオメエを買ってるが、アタシはそれほど期待してねえ。アタシが止めなきゃ誰も近藤の旦那を止められねえんだよ』

 物わかりの悪い子供をあやすようにかなめはそう言った。

『『逆臣』である近藤の旦那をアタシが殺してやるのが筋ってわけだ……アタシはマジの貴族の出だから……しょうがねえやな』

 かなめの力強い口調に誠はひるみつつ黙ってうなづいた。

『西園寺。『逆臣』と言うのは勝って初めていえる言葉だ……今はただの手配犯だ……我々はまだ勝利していない』

 冷やかすような通信がカウラから入った。

『いいんだよ!勝ちは見えてんだ……旧式の火龍相手に後れを取るかってえの!』

 子供のように主張するかなめの口元を見つめながら誠は自然に笑みが浮かんでくるのを感じていた。

『火龍の肩の二門の230ミリレールガンは厄介だぞ……当たり所が悪いといくら装甲の厚い05式でも一撃で墜ちる』

 鋭い声が誠の耳に響いた。かなめの画面の隣に、激高する表情のカウラがヘルメットをかぶっている姿が見える。

『なんだ?弱気の風に吹かれたか?戦闘用人造人間の『お人形さん』?』

 かなめのカウラに向けた言葉にはどこかしらとげがあった。

『事実を述べたまでだ……貴様は光学迷彩で視認されないだろうがこちらは有視界戦闘では丸見えだからな』

 カウラの落ち着いた言葉が聞こえたところで、誠の05式の全天周囲モニターに『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ランのあきれ果てた顔が大写しになった。

『生身だろーがサイボーグだろーがアタシ等これから仕事なんだわ。遊んでる暇ねーの』

 頭でっかちな幼女の一喝にかなめもカウラも黙り込む。

『西園寺。オメーの操縦が上手なのはわかってんだ。カウラもそれなりに使えるんだ。神前が使えねーのも十分承知。でも、オメー等は『最強』部隊長のアタシの部隊の一員なんだ。ちゃんと仕事をすれば勝てる戦いだ』

 ランは自信ありげにそう言いながら笑った。

『しゃあねえなあ……姐御、後詰は任せましたよ』

『後詰……西園寺、突入する気か?私のECMの有効範囲から出るのは厳禁だぞ』

 かなめとカウラが『特殊』な漫才を始める。

『それならカウラが前に出ればいいじゃねえか』

『それを指示するのは中佐だ!貴様は部下なんだからそれに従え!』

 二人の漫才は続く。戦場を前に漫才を始める二人の姿を見ながら誠はつい吹き出してしまった。


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