第163話 欺瞞の正義
「固形物を食べても大丈夫なのか?」
久しぶりのまともな食事である『かつ丼』を食べようとしていた誠に話しかける女性があった。第一小隊隊長、カウラ・ベルガー大尉である。いつものようにエメラルドグリーンのつややかなポニーテールを気にしながら誠の前に腰かけた。
「ええ、流動食は飽きたんで。それより今回の任務の詳細を聞いたんですけど、僕……本当に役に立つんでしょうか?ここに居てもいいんでしょうか?」
誠は割り箸を割りながら。誠は直接の上司である美しい無表情な女性に告白した。
「役に立つかどうか……それは私の決めることでは無いな……クバルカ中佐の仕事の
予想通りカウラはそう言うと頬杖をついて誠を見つめた。
「クバルカ中佐は僕じゃないと出来ないみたいなこと言いますけど……本当に僕で良いんですか?」
誠はそう言いながらかつ丼に箸をつけた。
「ああ、それなら問題は無いだろ?私は戦場を用意する……私の機体は電子戦に特化した指揮機だからな。それが私の仕事だ」
どんぶりを持ち上げた誠にカウラはそう言って微笑みを浮かべた。
「そうなんですか……本当に僕で……」
そう言いながら誠は魚料理しか無い『ふさ』の食堂の貴重な肉料理であるかつ丼のカツを口に運ぶ。
「だから何度も言った通り貴様が必要だから私達は貴様を部隊に配属させた……それだけだ」
カウラはそう言ってかつ丼に食いつく誠に微笑みかけた。
「僕が必要なんですね?」
カツの下の白米を口に運びつつ誠はそう言った。
「何度も言わせるんじゃない、貴様はこの『特殊な部隊』には不可欠な存在だ」
「カウラさん……っ!」
誠が思い切り
食道に入ったご飯粒を吐き出しつつ誠は息を整えた。
カウラは相変わらず頬杖をついてほほ笑んでいる。
「それより問題なのは西園寺だ。アイツは貴様に入れ込んでいるが……あの通り直情的な性格だからな……戦場で頭に血が上って貴様に迷惑をかけることになるかも知れん。そちらの方が心配だ」
そのエメラルドグリーンの真剣な瞳が誠の顔を捉えて離さなかった。
「西園寺さんですか?確かに僕を連れ戻しに来た時みたいに自分の感情を抑えきれない所がありますから。でも実戦経験者ですよ。僕より役にたちます」
誠は本心からそう言った。
西園寺かなめ大尉。第一小隊二番機担当。機械の体を持つわりに感情の歯止めが効かない所があるかなめのことを思うと、誠も少し心配になった。。
「アイツは感情に任せて銃を撃ちまくるところがあるからな……だが今回は無駄撃ちはしないと思う……アイツもそこまで馬鹿じゃない」
カウラははっきりとそう言った。しかし、ここは『特殊な部隊』である。外界の『一般人』が関わって無事に済むという保証は無い。
「西園寺さん……僕を救出に来た時みたいに敵を撃つんでしょうね。それが任務ですから」
いったん手にしたどんぶりをテーブルに置いて誠はそう言った。
「任務の為ならためらわず撃つだろうな……西園寺は。貴様の良心が痛むのを少しは和らげるたとえ話をすると、今回の敵は甲武国の反乱分子なんだ。お前の好きな特撮ヒーローもので言うと『悪の組織』だと思えばわかりやすい。敵は全員、脳改造された『戦闘員』だ。正義の司令官、クバルカ中佐の命令で戦えば必ず『正義』は勝つ。『正義の女改造人間』の西園寺かなめ中尉のバックアップをするのが貴様の任務だ。私はそのための戦場を用意する」
カウラは真剣な表情で誠にそう言うと、気が済んだように誠に笑いかけた。
「カウラさん……『悪の組織』とか……『戦闘員』とか……僕の気を紛らわせようと……『たとえ話』をしたんですね……もしかて……パチンコにそんな台があるんですか?好きなんですか?」
少し誠は感動していた。さすがに社会人経験が長い女性上司だ。そう思って誠は少し感動していた。誠の笑顔にカウラは笑顔で答えた。彼女は美しいエメラルドグリーンの髪をなでながら立ち上がった。
「確かに私が得意とする台にそう言う設定のモノがあるのが事実だがそれはそれの話だ。神前。貴様は自分を信じて戦え。戦う中で困ったことがあればその時はクバルカ中佐がなんとかしてくれる」
「はい!」
笑顔で頷くカウラの言葉に誠はそう言って頷いた。
カウラは誠に背を向けると食堂を出て行った。
誠は彼女のさわやかな雰囲気になごみながらかつ丼のどんぶりを手に食事を再開した。