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ディサービス

また電話がかかって来た。やれやれと思いつつ電話に出る。
「はい、もしもし、大村です」
「あ、大村さんですか、度々、すみません」
「また、お迎えですか?」
「お願いできますか?」
済まなそうな職員さんの声を、もう何度も聞いていた。
やれやれと思ったが、仕方あるまい。
「四十九日も過ぎたのに、またですか、よほど、そちらが楽しかったようですね」
「ええ、今も認知症の方と、自然に会話なさっています」
「そうですか。ご迷惑かけてすみません」
「いえ、こちらこそ、何度もお電話してすみません」
「いえ、いいんです、うちの祖母ですから」
「じゃ、お待ちしています」
「はい・・・」
うちの祖母は、確かにその施設のデイサービスを利用していた。だが、すでに祖母は死亡しており、死んだはずの祖母が、なぜかその施設に現れ、困った職員がうちに電話して、お迎えに行くというのが、祖母の死後も続いていた。
だが、迎えに行き、車に乗せて連れて帰ろうとすると、家に着いた瞬間、忽然と消えて、翌日、施設に現れるを繰り返していた。
「お婆ちゃん、うちじゃなくて、どこか別のところに帰りたいの?」
そう尋ねるが、祖母は答えなかった。
祖母を後部座席に乗せて車をスタートさせる。祖母は遠ざかる施設の方に手を振っていた。祖母を車に乗せるのを手伝ってくれた施設の職員さんも、祖母がすでに死んでいるのを十分知っていて、私の車が遠ざかるのを優しく見送っていた。
いつまで続けるのか、分からない。だが、祖母が満足して成仏するまで続けようとは思っていた。


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