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第152話 まるで巡洋艦とは思えない内装

「どーだ、『特殊な部隊』の自慢の運用艦は」 

 『ふさ』への連絡橋の前にはクバルカ・ラン中佐が立っていた。自慢の運用艦を誠に見せるのが嬉しくて仕方が無いという笑顔がそこに浮かんでいた。たとえそれが『使えないあまり物』として回されてきたものであったとしても。

「じゃあ、私達はこれで」

 そう言ってアメリアとかなめは去っていく。カウラも『ふさ』にある『パチンコ台コレクション』にでも行くようにその後を追った。

 ランの小さな体の向こうには巨大な『ふさ』の船体が見えた。

「大きいですね」 

 誠はランの言葉に率直な感想を述べた。

 『偉大なる中佐殿』の顔は明らかに期待はずれの答えを誠が出したと言うような呆れた顔をしていた。

「でかいって言うなら東和宇宙軍の戦艦にはもっとでけーのがあるぞ。……ってまーこいつの凄さは外から見てわかるもんじゃねーかんな」 

 そうして連絡橋にたどり着いた二人は、大きなコンテナを積んだトレーラーの後ろを歩いていく。

 誠達は連絡橋を渡り、艦の中に入った。東和軍の所有の軍艦なら何度か乗せられた経験もある。これまで誠が乗った艦より『広すぎる』ように感じる倉庫の中をランに導かれるようにして歩く。

「ここまでは普通」 

 ランはそう言うとこの区画の端に設けられたエレベータの中に乗り込んで、誠が入ったのを確認して上昇のボタンを押した。ドアが閉まり沈黙が訪れた。

 そしてドアが開く。そこで初めて誠はランの言葉の意味を知った。

 生活区画の通路は、以前、誠が宇宙での各種戦闘技術の訓練のために乗った輸送艦の数倍の幅がある。

「巡洋艦って凄いんですね……」 

 誠の声にランは笑いながら振り向く。

「この艦の内装は特別製だ。遼州星系の艦は『ある理由』から他の星系の戦闘艦より兵隊を多く載せるんだが、うちは『特殊な部隊』で『武装警察』の側面もあるから、人員は他の戦闘艦に比べてすくねーんだ。だからこんなに広い」 

 しばらくしてエレベーターは艦の中央部のスペースで停止した。

「吐きすぎて腹が空いたろ。飯にしよーや。ここの飯はすっげーうめーぞ」

 開いた扉からランは『ちょこん』と降りる。誠はその後に続いて広めのエレベーターから降りた。

 その階は共有スペースのようだったが、やはり『釣り部』の支配地域であることが誠にも分かった。

「なんで……壁中に『魚拓』が貼ってあるんですか?」

 悠然と歩く『偉大なる中佐殿』に誠は尋ねた。

「『魚拓』だけじゃねーぞ。写真もいっぱいある」

 ランはそう言って食堂らしい扉の脇に張られた写真を指さす。

 そこには巨大なカジキマグロを釣り上げた女性と、それを祝福する『釣りマニア』達の姿があった。ちゃんと『遼州同盟・司法局実働部隊・艦船管理部・医務班』と言う垂れ幕まで映り込んでいる。よく見ると釣り上げた女性が特殊な部隊の(いや)しの象徴である神前ひよこ軍曹であることが分かって誠は呆れつつ苦笑いを浮かべた。

「『艦船管理部』って……『ふさ』の他にも船があるんですか?」

 誠を置いて食堂に入ろうとするランに慌てて声をかけた。

「あったりめーだ!奴等は『世間から後ろ指をさされる』ぐれーの根性の入った『釣り人』だ。遼州星系から『漁業業界』や『海運業界』から続々と『猛者(もさ)』達が集結した」

 自信をもって誠を見上げるランを見ながら誠は思った。

『この船『軍艦』なんですけど』

 当然、気の弱い誠は『偉大なる中佐殿』にそんなことは言えなかった。

「それだけじゃねーぞ。他にも『医療関係者』。意外とこの業界には『釣りの為なら患者も殺す』ような、根性の座った奴が多い。あと、『元傭兵』もいる。奴等は銃撃戦の最中も『釣り』のために『仲間の死』すら恐れなかった『プロフェッショナル』だ!」

「そんな医者や傭兵は嫌ですよ、そんな人達と一緒にいるのは。僕は死にたくないんで」

 誠のまともなツッコミを完全に無視してランは食堂の奥のテーブルに腰かけた。誠は仕方なく彼女の正面に座る。

「おい!アレだ!」

 ランは食堂の奥に向かって叫んだ。


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