第145話 貴族制国家の伝統の『刑罰』
「第六艦隊提督の本間中将も馬鹿じゃない。近藤の旦那が本国政府の意に沿わない危険な行動を取る前に奴を
早口に嵯峨はそう話す。内容は完全に司法局の権限を逸脱しかねない内容である。
そんなことを一士官候補生に話してみせる嵯峨の頭の中が読みきれなくて、誠はただ戸惑っていた。
「『流罪』って何です?」
誠は意味も分からずそう言った。
「まあ身分制とは無縁と東和育ちのお前さんには分からないだろうな。甲武の『流罪』は半端じゃねえぞ。まるで江戸時代以前のそれだ。半分壊れかけのコロニーに運ばれてそこで暮らせって身一つで置き去りだ。それこそ一年生き延びられたら奇跡だからな。ほとんどは半年で餓死するわけだ」
「餓死?」
そう言う誠には甲武の仕組みがいまだに理解できずにいた。
「そうだよ。
嵯峨の言葉に誠は息をのんだ。甲武国の闇を見た誠はただ黙り込むばかりだった。
「そういう所なんだよ……宇宙なんてのは。あそこは人口が増えるんで困ってるからな。口減らしにそんな制度を作って、それがまだ運用されているんだ。増えすぎた平民が息するだけでも税金がかかる。だったら手っ取り早く『餓死』させれば、誰も手を汚さずに良心も傷まない。そんなところなんだ……この空の向こうはね」
そう言って天を見上げる嵯峨を誠はじっと見つめていた。
「東和共和国に生まれたことを感謝しな……ひどいところに生まれようもんなら……死んで当然なのが世の中なんだ……そりゃああんまりな話じゃないの」
嵯峨のあきらめたような言葉を聞いて誠はただ自分の世間知らずぶりに唖然とするだけだった。
「そんな国……変えないと……誰も何も言わないんですか?」
誠は正直な気持ちを嵯峨にぶつけてみた。
嵯峨は誠の真面目な表情に少し嫌な顔をするとタバコの煙を天井に向けて吐いた。
「兄貴……ああ、かなめの親父な。変えたいんだと……身分とか豊かさとか。そんなもん人間の価値じゃねえだろってのが兄貴の思想。でも、それは異端なんだな、あそこでは」

嵯峨の言葉で誠はあのかなめが尊敬しているらしい改革派の政治家、かなめの父西園寺義基の姿を想像した。
「そんな……当たり前の話じゃないですか!人間はそれぞれに価値があるはずです!」
思わず誠は自分の言葉が激しくなっていることに気づいて少しうつむいた。
「そりゃあ……理想論だよ。現実はそんなに甘かあねえんだよ。貴族や士族には特権がある。貴族には年金が支給されてるし、士族は優先的に軍や警察、役所に勤められる。豊かな平民だって自分の
嵯峨はそこまで言ってしばらく黙り込んだ。