第136話 寿司の代償
「でも……なんで今日は寿司なんです?」
今朝から午前中のランニングや午後のシミュレーター訓練中も気になっていたことを誠は口にした。
「あれだ……気が向いた……ってのは半分は本当。でもそれ以上にうちに残るって言うオメーの気が変わったんじゃねーかと思ってな……今回の演習の件もある」
「はい、ちらしお待ち!」
ランがつぶやく間に大将が大盛ちらし寿司を誠の目の前に置いた。そのどんぶりは誠の想像をはるかに上回るもので、その上には旨そうな刺身と錦糸卵と海苔が散らされていた。
「おっきいですね……」
「問題は量じゃねーんだよ。食ってみろよ」
豪華にマグロや白身魚が盛られたちらし寿司である。誠は試しにマグロとご飯を口に運んだ。
「え?……旨い」
誠は正直驚いていた。ちらし寿司と言うと母が時々作るが、そこにはこんなに具は乗っていない。白身や赤身の魚の切り身が散らされたそれはシイタケやカニカマばかりの実家のちらし寿司とはまるで別物だった。
「そりゃーそーだ。寿司屋なんだから」
ランは笑顔で刺身をつまみ酒を飲む。
「でも……本当に美味しいです!ありがとうございます!」
誠は心からそう思いガツガツとちらし寿司を食べ進めた。
「そのー、なんだ。喜んでいるところなんだけどよ」
そう言うとランは手にしていた猪口をカウンターに置いて誠を見つめた。
「なんです?」
どんぶりを手にしたまま誠は奢ってくれた上司に目を向けた。
「オメーには
「僕を『特殊な部隊』に引き込んだことですか?」
誠はそう言うとランの真剣な表情に負けてどんぶりを置いて彼女の瞳を見つめた。
「それもある……ていうかそれが原因でお前はひでーことをさせられることになる」
「ひどいこと?今回の演習で……」
訳も分からず誠はランに聞き返した。
「そうだ。オメーはその力で人を殺す……アタシが殺させる……すまねー」
静かに頭を下げるランに誠はただ茫然と彼女の小さな体を見つめることしかできなかった。
「やっぱり、今回の演習は実戦になるんですね」
誠は少しだけランの言っていることの意味が分かってそう言った。その言葉は震えていた。
「実戦になる……そうなることをアタシも隊長も望んでいる……いけねーことだと分かってる。そうあっちゃ困ることも、オメーに人殺しをさせることになるのも分かる……でも、アタシ達の本当の目的のためには仕方ねーことなんだ。許してくれ」
一度、誠の顔を見つめた後、ランはそう言って深々と頭を下げた。