第134話 戦争責任と『御鏡』
「じゃあ前の戦争でたくさんの甲武の兵が死んだのは……」
二十年前の『第二次遼州大戦』のことはさすがの誠も知っていた。そしてその戦いで数億の命が失われたことも当然知っていた。
「甲武の兵隊は鏡の為に死んだわけだが……死んだ原因を作ったのは時の政府と軍って訳なんだ。鏡は何も間違っちゃいない……全責任は負ける戦争をした政府にある訳だ」
嵯峨はそう言うと胸のポケットから二本目のタバコを取り出した。
「どこか……納得できないんですけど」
誠には理解不能だった。鏡と言う『モノ』の為に幾億の命が失われるということに誰も疑問を持たないことが不思議でならなかった。
「そうかい。俺にはよくできた政治体制と言えると思うがね。人間は絶対に間違える生き物だ。その生き物の顔を映し出す鏡が映された人間に全権を与える……
嵯峨はそう言って笑った。
「隊長のお兄さんってことは西園寺さんのお父さんですよね」
「そうだよ。
頭を掻きながらそう言うと嵯峨はニヤリと笑った。
「西園寺さんのお母さん……どんな人なんです?」
「そりゃあ……鬼。なんて言ったら俺は殺されるな」
誠は嵯峨の言葉に思わず驚いて目をむいた。
「まあ、冗談だよ。まあ食えないオバサンだな。俺が鬼扱いしてたのは忘れろ。本当に冗談じゃ済まなくなる」
「はあ」
皮肉のこもった笑みを浮かべる嵯峨を見つめながら誠は今一つ納得できないでいた。
「そうですか……」
「まあさっきも神社の話が出たように宗教とか研究すると似たような話が出てくるが……お前さんは理系だもんな。関心ねえだろ?」
「また馬鹿にしてるんですか?」
知らないことばかりとは言え、さすがにこれだけ見下された口調で説明を受ければ気の小さい誠でもカチンとくる。
「そう卑屈になりなさんなって。なんなら寿司でも食いながらランに相談してみな。いい本を紹介してくれるんじゃねえかな……お前さんに理解できるかどうかは別だが」
「やっぱり馬鹿にしてるじゃないですか!」
口から天井に向けて煙を吐きながらの嵯峨の言葉に誠はそう言って抗議した。
「馬鹿にされるような知識量だから馬鹿にされるんだよ。勉強しなさいって……ああ、それはランの決め台詞だったな」
「確かにクバルカ中佐ならそう言いそうですけど」
「そこまで分かってるならちょっとは勉強してよ……社会常識だよそんなの。だから一つも内定貰えねえんだよ」
一番誠が嵯峨について頭に来ているところを突かれて誠は怒りの表情で嵯峨をにらみつけた。
「人の進路をすべて潰した人の言うセリフですか?それ」
「確かにな……ランが待ってるんだろ?行って来いよ」
「行ってきます!」
さんざんおもちゃにされたという事実に気分を害しながら誠は大股で廊下を歩いていった。