大人は信じてくれない
夕立の土砂降りのとき、俺は鎌を持ったババァに追い掛けられた。必死に逃げて、もうだめだと思ったとき、ババァの鎌に雷が落ちた。ババァは感電して、バタンと倒れた。死んだかどうか確認する余裕はなく、俺は交番に駆け込んだ。幸い、交番におまわりさんがいて、俺は鎌を持ったババァに襲われたと話し、そのババァが倒れているはずの場所に、おまわりさんと一緒に戻った。
俺は戻りたくなかったが、俺が嘘をついているかもと子供のいたずらと疑っているのか、おまわりさんは、怯える俺を連れて、そこに向かったが、倒れていたはずのババァも、雷が直撃した鎌も何も残っていなかった。
俺は泣きながら、嘘じゃないと大人たちに話したが、大人たちは誰も信じてくれず、最後にオヤジが、うちの息子がご迷惑をおかけしましたと、俺がおまわりさんに嘘をついたという形で幕になった。
子供のころだったし、俺も大人になるにつれて記憶が薄れ、あれは、本当のことだったのかと自信がなくなってきていたとき、急の夕立に降られて、ずぶ濡れになりながら、また、鎌を持ったババァと鉢合わせした。恐怖より、俺は嘘なんかついていなかったんだ本当だったんだと、思わず、そのババァの姿を見て笑みを浮かべてしまった。もちろん、追い掛けられたが、逃げることしかできなかった子供の頃とは違う。大人になって、それなりに体格も大きくなり知恵をつけた今の俺ならなんとかできると思ってしまい、その釜の餌食になってしまった。