第123話 まともな人間とは?
「でも考えてみればこの中で普通の人間て……男子だけなんですね。西園寺さんはサイボーグでアメリアさん、カウラさん、パーラさん、サラさんはラスト・バタリオンですから」
そんな何気ない一言を言った誠の頭をアメリアがはたいた。
「何よ!私達が人間じゃないって言いたいわけ?確かに地球の一部の国は私達を人間として認めてないところもあるけど、私は人間。意思もあるし、心もある。しかも笑いにはうるさい。寒いアメリカンジョークしか言えない
思い切り誠に顔を寄せてくるアメリアにたじろぎながら誠はシシトウを口に放り込んだ。
それは『当たり』だった。
口の中に火が付いたような辛みが広がって誠は思わずむせながらビールをあおった。
「人をメカ呼ばわりするからそうなるんだ。それにだ。オメエも島田も遼州人だから、地球人の遺伝子は継いでねえんだ。その点、ここにいる女子はみんな地球人の遺伝子を継いでる。ここにいる二人の男は両方地球人から言わせれば『エーリアン』なんだ」
ラムを舐めながらそう言ってかなめは笑った。
「西園寺さんのお父さんかお母さんが地球人なんですか?」
何とか口の中の辛みが取れ始めた誠はそう言ってかなめのたれ目をのぞき見た。
「アタシの親父が地球系だな。『甲武国』っていうアタシの生まれた国はほとんどが地球人だから。そこで政治家をやるには地球人である方が好都合ってわけ。貴族が支配して『地球人は偉い』ってのがスローガンの国なんだ。当然だろ?」
笑いながらかなめはシシトウをかじった。
「お父さんが政治家……もしかして、西園寺さんも貴族なんですか?あそこの政治家は全員貴族って聞いてるんで」
誠はそう言って恐る恐る残ったシシトウを口に運んだ。
「神前。貴様の社会常識の無さは致命的だな。西園寺の父親は甲武国宰相、

カウラは『当たりのシシトウ』を口にしたらしく顔をしかめながらそう言った。
「宰相令嬢!?お姫様!?なんでそんな偉い人がうちみたいな『特殊な部隊』で女ガンマンやってるんですか?お姫様だったらそんな危険なことさせられないでしょ?普通」
思わず誠は叫んでいた。昨日の出来事で、この『特殊な部隊』が死と隣り合わせの危険な仕事なのは誠にも分かっている。そんなところに自分の娘を置いておく権力者の父の気持ちが誠には理解できなかった。
「神前……てめえはしょせん庶民だな。だからこそ……自分の娘だからこそ
そう言うかなめの手に葉巻が握られていることに誠は驚きつつ、当たりではないシシトウを飲み込んだ。
宰相令嬢らしいところは高そうな葉巻を悠然とくゆらせているところくらい。きっちりとシシトウをかじりながら酒を舐めるかなめの姿に、誠はただ理解不能な存在を見つめる目で眺めていた。
「あのー西園寺さん。本当に偉い人の娘なんですか?なんでサイボーグなんですか?」
誠の当たり前の問いにかなめはひとたびくゆらせていた葉巻を灰皿に置いた。
「馬鹿だなあオメエは。一応、この東和共和国でもサイボーグ化しないと一命にかかわる事故を負うと保険で民生用の義体を支給されるけど、甲武国では人間が増えっからそんな制度ねえんだよ」
物わかりの悪い子供を諭すようにかなめはそう言った。
「え!じゃあ、庶民が事故に逢ったら……」
驚きとともに誠はそうつぶやいた。東和共和国のサイボーグ技術は宇宙屈指である。その健康保険制度にまで適用される延命技術は、地球からも垂涎の技術力とされていた。東和と国交のある甲武なら当然その技術くらい持っていても不思議ではない。
しかし、かなめは皮肉めいた笑みを浮かべるとラムを舐めながら話を続けた。
「金持ってねえと死ぬしかねえの!あの国は!地球だって採算に合わないからサイボーグ保険なんて金持ちのみの特権なんだから。アタシがサイボーグなのはアタシが金持ちの貴族だからに決まってんだろ?それともテメエはそんなにアタシが下品だと言いてえのか?」
かなめはそう言いながら右手を左わきのスプリングフィールドXDM40に伸ばした。
「違いますよ!でもそんなにVIPだったら怪我なんて……」
そこまで誠が言ったところでかなめは右手を再び葉巻に向けた。
「うちはな。代々政治家の家なんだよ……西園寺家は甲武を建国するときに多大な貢献をした名門だ。だから、甲武建国後も何人も宰相を輩出している」
かなめはしんみりとした調子でそう言いながら春子が差し出した焼鳥盛り合わせを受け取ってカウンターに並べた。