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306 フィオナ商隊の帰還

 「ちょっ!?なにこの盛り上がり!?」

 フィオナの隣を歩くライラが、その三白眼をキョロキョロさせながら叫んだ。

 ルナがここのところ交易前線を離脱しているため、フィオナ商隊が交易へと赴く際は、サロン内の隊長が交代で同行しており、今回はライラが参加してくれていた。

 「ウフフ。ライラ、最近、帰還したら、常にこんな感じなのよ」

 フィオナが微笑みながら言った。

 「いやでも、ほんのちょっとした交易だったんだけど!?」

 先日のワイルドグリフィンの襲撃で、建物の壁や、市場にあったたくさんのものが破壊されてしまっていた。

 フィオナ商隊、またフェンのキャラバンサロンの、ここ最近の交易はもっぱら、市場の物資の充実を目的としたものだった。

 「今回の交易とか、メロの国のすぐ近くの村で、お皿とかお椀とかの食器を交易してくるだけの、こんなキャーキャー言われない簡単なお仕事だったんだけど!?」
 「たぶん、内容は関係ないのよ」
 「なるほど……」
 「ウテナ、すごい人気出たわね~」

 ライラとフィオナは苦笑した。

 「おぉ!ウテナだ!」
 「ウテナさ~ん!」
 「こっち向いて~!……キャ~!!」
 「あ、あはは……」

 周りの、自分へ向けられた熱いアツい目線と声援に、少し戸惑いながらも、嬉しそうにウテナは手を振る。

 大通りの市場は、ウテナの登場によって、最高潮に盛り上がっていた。

 人混みのため、少しずつ、フィオナ商隊は前に進んでいた。

 大通りには、白い包みに入っているマナ石のちょうちんが均等な距離に設置され、オレンジ色の落ち着いた光が、辺りを明るく照らしていた。

 そのちょうちんに、一瞬だけ、周りと違ってウテナのほうに目線を向けることなく、正面を向いて道を横切る男の姿が、照らし出された気がした。

 「!?」

 目の端でかろうじて捉えたため、確信はない。

 みんな自分のほうを見ていたため、逆に印象的だっただけともいえる。

 しかしその容姿……黒い髪の毛に黒い瞳、どこかで見たような顔をしていた気がする。

 ……まさか!

 ルナから、ジンのことは聞いていた。

 「ちょっと、ごめんなさい!」

 ウテナは素早く、人混みの波を器用に泳ぐように進みながら、ちょうちんのもとへ。

 「キャ~!!ウテナさんだ!!」
 「えっ!?なんでここに!?」

 ウテナのすぐ近く、黄色い声や、若者達の動揺の声が広がる。

 「……」

 黒髪の男の姿は、人混みに紛れてしまったか、消えてしまっていた。

 ……気のせいかしら。

 「ウテナ~!どうしたの~?」

 ライラが手を振っている。

 「あっ、えっと、……なんでもないです!」

 ウテナはラクダ達と、フィオナとライラのもとへ戻った。

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