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第2章6話 第2戦悠vsスターク 侵入者到来

ルーカス大統領の合図と同時に悠とスタークの組手が開始された。その後、一進一退の攻防を続けているとソフィアが悠のある違和感に気づいた。

 「あのお師匠。組手が始まってから悠の足音が全然してないように感じるのですが。それに呼吸音も。」

 「おぉ気づいたか。そうだ。それは悠坊が今使っている『夜行』を使う時の剣術、『夜行流一刀術《やこうりゅういっとうじゅつ》』によるものだな。」

 「その剣術の特徴はとにかく音がしない無音の剣術だ。」

 「無音の剣術・・。」

 「そう。足音から刀を振る時の音、呼吸音までも聞こえない。いきなり表れて切り伏せるまるで妖怪のようにな。」

 「お師匠、妖怪って。」

 「例えだよ。いずれ悠坊に勝ちたいのならしっかり見ておけ。あの剣術の恐ろしいところは五感のうちの一つ聴覚を間接的に潰しているというところだ。」

 「聴覚を?・・・あっそうか。音が聞こえないってことは悠を認識する方法は視覚か嗅覚のみ。人間が情報を仕入れるために活用している割合が高いのは視覚。そんな状態で一度視界から外れるとよっぽど嗅覚がすぐれていない限り再度認識することは相当困難になる。ということですね。」

 「そうだ。さらに、そこから飛んでくる攻撃も無音であるため避けることも受けることも難しい。本当に恐ろしい剣術だ。それを実現している悠坊の技術もな。」

その頃、悠とスタークはお互い攻撃が当たらない硬直状態が続いていた。

 「流石に一筋縄ではいかないか。」

 「それはお互い様だろ。お前を視界から外さないように立ち回るのは、本当に骨が折れる。」

 「まぁそうだよね。『夜行流一刀術』を知っているとそういう立ち回りになるよな。でもいいのか?スターク。」

 「あ?」

 「その位置は、《《射程範囲内》》だよ。」

悠は刀を鞘に納め抜刀の構えをとった。

 「させるか!『影狼 狼牙』」

スタークは悠に攻撃さすまいと構えた瞬間の攻撃を仕掛けた。がしかし、

 『夜行流一刀術 |夜刀神《やとがみ》』

一瞬で間合いを詰め、スタークのみぞおちに峰内を打ち込んだ。
『夜刀神』は抜刀の構えから脱力することにより腕にこもる無駄な力を抜くことで生まれる剣速と特殊な軌道により相手の防御や攻撃を掻い潜り攻撃を当てる抜刀術である。さらに、脱力によって生まれるスピードは凄まじく速く目視でとらえることは不可能であり、腕にこもる無駄な力を抜いていることで直線的な軌道だけでなく、様々な角度から切りつけることが可能となった。

 「一本だな。悠坊の勝ちだ。」

 「すげぇ、スターク師団長に勝った。」

 「負けた負けた。お前の抜刀術は防御ほぼ不可能なの忘れていたよ。しかもお前、狙ってあの場所にいたろ。」

 「え?そうなの?」

 「うん。あのまま均衡状態が続いていたら不利になるのは俺の方だったからな。一気に勝負を決めるために『夜刀神』の射程範囲内且つスタークの攻撃が当たるまでに1秒弱かかる距離まで離れる必要があったからね。」

 「後半ヒット&アウェイ気味に動いていたのは距離と時間を計ってったってわけか。」

 「正解。」

 「でも、均衡状態が続いていたら不利になるってどういうことなの?」

 「それは、『夜行流一刀術』の弱点が《《慣れ》》だからだ。」

 「お師匠。」

少し離れて見ていたルーカス大統領が解説に入った。

 「『夜行流一刀術』はいかなる音が無へと帰す無音の剣術。言い換えれば超高難易度の初見殺し技ともいえる。だが、いくら超高難易度の初見殺し技とはいえ時間をかけすぎれば仕組みまではわからずとも対処法くらいは思いつく。それこそさっきスタークがしていた距離を保ちつつ視界に入れ続けるとかな。」

 「なるほど。そんな弱点があったのね。」

 「まぁ、もちろんそんな弱点を補うための技もあるんだけどね。」

 「悠!もう1回私とやりましょう。」

 「いいよ。」

その後も朝日が昇るまで何戦も組手をした。そして、悠と彩音は朝一の飛行機に乗って東部へ帰還した。

 「着いたな。俺は千代さんのところに今回の件のことを報告してくるから先に基地へ帰っててくれ。」

 「かしこまりました。お気を付けて。」

悠は総司令のいる官邸へ向かった。

 「すみません。総司令はいらっしゃいますか?」

 「夜岸師団長。はい、総司令ならただいま執務室にいらっしゃいますよ。案内は大丈夫ですよね?」

 「はい大丈夫です。ありがとうございます。」

悠は総司令の自室の扉をノックした。

 「千代さん、俺です。悠です。」

 「どうぞ、入っていいわよ。」

悠が執務室に入ると、千代が右手でパソコンを操作し、左手で大量にある資料に目を通していた。

 「失礼します。アポなしで急に来てすみません。」

 「全然いいのよ。いつ来てくれても。それでどうしたの?」

 「先ほど南部から帰ってきたので南部での出来事を報告しようかと。」

 「疲れているはずなのにありがとう。報告して頂戴。」

悠は南部でのデモの様子や元凶などをすべて報告した。

 「以上が南部での出来事の報告です。」

 「へ~そんなことがあったのね。そんな子供じみた理由で悠に迷惑を。」

総司令の顔は笑っていたが穏やかな様子ではなかった。

 「えーっと、例の大臣は懲戒処分と教唆犯で懲役刑になったそうです。後、ルーカス大統領が1週間後に謝罪に来られるそうです。」

 「ルーカス大統領が?えぇ~と1週間後ね。わかったわ。報告ありがとね。」

 「それでは、失礼します。」

悠は官邸を後にした。その直後、彩音から緊急の通信がきた。

 「師団長聞こえますか。」

 「どうした、何があった。」

 「第1の基地が襲撃されています。個体数は1、恐らく【四門】だと思われます。」

 「わかったすぐに向かう。戦闘員以外を避難させろ。戦闘員たちも無理に戦わないように言ってくれ。死傷者を出させるな。俺が向かうでは耐えてくれ。」

 「わかりました。監視カメラの映像を送ります。」

カメラの映像を確認するとそこには3mはあろう全身毛で覆われており額には2本の角に豚鼻と大きな2本の牙が特徴的な人獣型の魔物が基地の外壁を突進で突き破る姿が映っていた。

一方基地では、侵入してきた魔物が暴れながら基地内部にまで侵入してきていた。

 「副師団長、外壁が突破され基地内部に侵入されました。」

 「かなり暴れているな。彩音。師団長はあとどのくらいで戻ってくる?」

 「そうね。総司令部から急いで20分といったところかしら。」

 「そうか。よし、奴を第1訓練場におびき寄せろ。あそこならある程度暴れられても大丈夫だ。他の団員には決して近づかないように伝えろ。」

 「わかりました。防護壁を展開します。」

防護壁を展開したが、魔物は難なく防護壁をつい破っていく。

 「副団長。このままでは訓練場まで持ちません。」

新田がどうしようか考えていると、彩音が

 「ねぇ荒太。あの魔物何かつぶやいてない?」

 「なに?」

映像を確認すると、魔物はなにかぶつぶつとつぶやいていた。

 「・・者、強・・は・・こだ。我に・・向・・・者はど・だ。」

 「断片的にしか聞こえないが戦う相手を探してる感じだな。基地の破壊が目的ではないのか。」

それを聞いた萩原がある提案をした。

 「なら俺はおびき寄せますよ。破壊が目的じゃないなら多分、挑発するとついてくると思います。」

 「いけるか?恐らく相手は【四門】だぞ。」

 「はい、大丈夫です。必ず第1訓練場におびき寄せます。荒太さんは訓練場で待っていてください。」

 「・・わかった。頼んだぞ。」

 「はい。」

萩原は魔物のもとへ新田は訓練場へ向かった。

 「おい、でか物!こっちだ。俺が相手をしてやる。鬼ごっこのな。」

魔物は萩原の声に反応して萩原の方を向いた。そして、ニヤッと微笑み萩原のほうへ向かって猛スピードで追っていった。

 「はやっ。荒太さん、つれました。そちらにおびき寄せます。」

 「わかった。」

萩原は何度か追いつかれそうになりながらも何とか逃げ切り、訓練場へおびき寄せることに成功した。

 「よくやった萩原。」

 「あいつ見かけによらず相当早いです。気を付けて。」

 「よう魔物よ。よく来た、ここなら思う存分暴れられるからな。一応、名前でもきいておこうか。」

 「我は陸王眷属、【四門】が1人。『天門』の乾。聞こう汝は強者か?」

 「やはり【四門】。さぁ、どうだろうな。師団中ではそれなりの実力者だと自負しているが、強者かどうかは自分の体で確かめな。」

 「ならばそうしよう。」

その巨体からは想像もできないほどの速さで新田に近づき、拳を振り下ろした。

悠の到着まであと、13分。

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