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第2章5話 稽古開始 悠vsソフィア

竜太郎の専用武器を作るために総司令本部の敷地内にある武器の製作所へとやってきた氷室と竜太郎。部屋の奥から出てきたのは上下スウェットと白衣を着た気だるそうな女性だった。

 「あっむーちゃん。よかった起きてたんだな。」

 「君の声で起きたんだよ。えっと、誰だっけ?」

 「第2師団長の氷室だ。」

 「あぁ、氷室か。」

 「自己紹介は10回はしたはずなんだけど、相変わらず武器を使わない人の名前は覚えられないか。」

 「それはそうだろ。武器を使わないってことは私と関わることがほとんどないってことだ。だったらそっちに脳のリソースをさくより武器づくりにリソースをさいた方がよっぽどいい。」

 「そうかい。」

 「あ、あの~師団長。こちらの女性は?」

 「あぁ、悪い。この人はここで武器を作っている光明院紫《こうみょういんむらさき》。通称むーちゃん。」

 「どうも。苗字は長いからお前もむーちゃんでいいぞ。」

 「あっどうも。第2師団赤羽隊隊長の赤羽竜太郎です。こ、むーちゃんさんはここで一人で武器を作っているのですか?」

 「あぁ、専用武器は完全に私一人だな。戦闘員たちが使うやつは私じゃなくても作れるから他の人に作らせてるけど。それよりえぇっと氷室。隊長ってことは専用武器の事か?」

 「そう。でもその前にむーちゃんどうせ何も食べてないだろ。食べ物と飲み物を買ってきたからまずは食べな。奥の部屋開いてる?」

 「そういえば食べてなかったな。ありがたくいただくよ。付いてきな。」

氷室たちは紫の後についていき、8畳ほどの個室へ通された。個室へ入るや否や紫は氷室が買ってきた食料の入った袋を取り、何も言わずに食べ始めた。
紫は無言で食べすすめ、10人前はあったであろう食料がほんの10数分で全て紫の胃
の中に入っていった。

 「あれだけあった食べ物を全部食べた。」

 「本当よく食べるな。」

 「ふぅ~ごちそうさま。さて、そいつの専用武器についてだったな。だが、その前に氷室。」

 「何だ?」

 「ゆーちゃんはどこにいる。」

 「ゆーちゃん?」

 「悠なら南部から名指しで応援要請が来たからそっちに行ってるよ。早くても帰るのは明日になるんじゃないか。」

 「なん・・だと。」

紫はよっぽどショックなのか机に伏せた。

 「久しぶりに部下以外の人がきたからゆーちゃんがいると思ったのに。やる気なくした。」

 「師団長。ゆーちゃんって夜岸師団長のことですか?なんか不穏なこと言ってますけど。」

 「むーちゃんは悠のことが大のお気に入りだからなぁ。」

 「お気に入りですか。なんでですか?」

 「そんなの決まっているじゃないか。今までに彼以上の武器使いを見たことがないからだよ。ほとんど完成形に近い肉体にどんな武器も扱える器用さ。さらに、判断能力の速さや情報処理能力、どれをとっても一級品。そんなの気に入るに決まってるじゃないか。」

 「まぁ、それだけじゃないけどな。むーちゃん。はいこれ。」

氷室は紫に一つの重箱を渡した。

 「なんだこれは?」

 「今日、むーちゃん所に行くって言ったら悠が持たせてくれた和菓子の詰め合わせ。全部悠の手作り。」

紫は目を輝かせて、氷室が持っていた重箱をとりすぐさま蓋を開けた。そこには、羊羹やおはぎ、どら焼きなどの様々な和菓子が隙間なく敷き詰められていた。

 「はぁ~最っ高。許されるのなら養子にしたい。」

 「よ、養子?」

 「本人曰く、40手前の独身女性に前に性格良し、自分の職業との相性良し。さらには、胃袋まで掴まれたらそりゃ養子にもしたくなるだろっだって。」

 「はぁ。」

 「よし。お前に合う最高の武器を作ってやる。」

 「見るからにやる気が上がりましたよ。」

 「悠が帰ってきたらお礼言わないとな。」

 「武器を作る前に、えぇっと赤羽だったか。今着てる服を全部脱げ。」

 「え?」

一方その頃、悠とソフィアの組手が開始され、見学していた第3・4師団員は食い入るように見ていた。

 「すごい、あれが師団最強の団長の力。」    

 「あのソフィア団長が攻めあぐねている。」

悠とソフィアの組手は悠の優勢で進んでいた。悠は2本の小太刀を使ってソフィアの動きを次々に制していた。ソフィアは次々と武器を生成、罠の設置など悠の動きに制限をつけようとしていた。

 「おう、ちょうどいいところで来たな。」

 「ルーカス大統領!どうしてここに。」

 「あぁ、そんなかしこまるな。悠坊に大臣の処分が決まったからそのことを話しに来ただけだ。まぁでも、訓練しているなら邪魔するわけにはいかないな。終わるまで俺もここで見学させてもらうよ。」

組手では悠がソフィアが張った罠を搔い潜り、懐に入った。組み手を見ていた誰もが終わったと思った時

 「まだまだ!」

ソフィアが声をあげると同時に、悠の足元にあった最後の罠が発動し1本の石の柱が悠の顎をめがけて伸びてきた。

 「成程な。考えたなソフィア。」

 「どういうことですか?大統領。」

 「ソフィアは罠をうまく使って悠坊をあそこまで誘導したのさ。一見、バラバラに配置して苦しまぎれに張ったように見せて実はあの一手のために誘導していた。随分と戦闘中の戦術の組み立てがうまくなったもんだ。だがな。」

 「?」

ソフィアの最後の罠が悠にクリーンヒットしそうになった瞬間、悠は小太刀の片方を頭上に投げた。すると、小太刀を頭上に投げた瞬間に悠はまるで煙のように消えた。

 「!」

 「第1の師団長が消えた!」

急に悠が消え、みんなが困惑していると

 『小太刀二刀流』

ソフィアが声を頼りに上を向くとそこにはすでに攻撃モーションに入った悠がいた。

 「防御が間に合わない!」

 『清姫《きよひめ》』

悠の小太刀がソフィアの首元に寸前で止められ、悠の勝利の終わった。

 「悠の勝ちだな。」

 「いや~やっぱり強いね悠は。また負けちゃった。」

 「ソフィアも最後の一手がワンテンポでも遅れていたら俺が負けてたよ。」

 「そうだぞ。悠をあそこまで追い詰めたんだ。大したものだよ。」

ソフィアが照れくさそうにしていた時にルーカス大統領が訓練場に入っていった。

 「いや~なかなかいいもの見せてもらったよ。」

 「お師匠!」

 「大統領、来てたんですか?」

 「まぁ、大臣のことでな。その前にソフィア。最後なんで悠坊がお前の罠を抜けれたと思う?」

ソフィアは少し考えて

 「わからないです。一瞬ことで何が何だか。」

 「それはな、悠坊が持ってる武器が関係してるんだ。」

 「武器?その小太刀のことですか?」

 「さっき俺が使ってた『姫』はある一定の距離を離れることができないんだ。一定距離を離れるともう片方に引き付けられるんだ。この小太刀は二刀一対だからね。」

 「成程。だから上に投げたのね。」

 「そういうこと。それより大統領、大臣についてお話があるのですよね。」

ルーカス大統領は思い出したかのように 

 「あっそうそう、大臣だが懲戒処分+教唆犯として懲役刑が決まった。。厳しいかもしれないが流石に悠に対する侮辱と市民を煽ったことが決め手だな。会議での態度も悪かったようだしな。」

 「そうですか。わかりました。」

 「それと、お前らいつ帰るんだ?」

 「明日にでも帰ろうかと、いつまでも任せっきりも悪いですし。」

 「そうか、じゃあ総司令殿に1週間後に謝罪に向かいますって伝えといてくれ。」

 「わかりました。必ずお伝えします。」

 「悠、また稽古して!お願い。」

 「その前に俺だ。お前は一旦休んでろ。だいぶ生成して疲れているだろ。」

ソフィアは少しいじけ気味に下がった。

 「ソフィアはまだまだ子供だな。負けず嫌いなことはいいことだがな。」

 「まぁ、今年23歳で悠に続いて若い師団長ですし、去年まで大学生でしたからね。経験ももっと積んだらいいとこまで行けるようになりますよ。」

 「悠、行けるなら言ってくれ。一応、連戦だからな。」

 「いつでも大丈夫だよ。団員達もこの稽古見ていい刺激になって訓練に励んでくれるといいんだけどな。」

 「それは大丈夫だろ。さっきソフィアとの戦いは食い入るように見てたぞ。」

 「ならよかったです。さてと、スタークそろそろ始めようか。ソフィアが我慢できなくなる前にな。」

 「だな、大統領開始の合図お願いできますか?」

 「あぁ、任せろ。」

 「行くよ。『夜行』」

悠は腰に携えていた日本刀を抜いた。

 「双方、準備はいいか。」

 「はい。」

 「いつでも。」

 「それでは始め!」

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