嫁いびり
「ごめん、君とは結婚できない」
「どうして? あなたのお父さん、別に反対しているようには見えなかったけど」
「オヤジは関係ない、母さんが、たぶん、嫁いびりをすると思う」
「嫁いびりって、あなたのお母さんって、もう亡くなってるでしょ?」
「そうだけど、まだ俺のそばにいるんだよ。俺のことを心配しているみたいでさ」
「あなたのそばに、お母さんの幽霊が出るの?」
「ああ、俺の目の前に出るんじゃなくて、俺が付き合う女性とか、結婚しようと思って女性を実家に連れていくと、母さんが憑りつくらしくて、寝てるときに顔を覗かれたとか、風呂に入って頭を洗っているときに、上から視線を感じたとか、でも、俺と別れて、しばらくするとその視線を感じなくなるって」
「つまり、あなたと付き合ったり結婚しようとしたら、もれなく、あなたのお母さんの霊が憑いてくると?」
私は、鼻で笑い、彼と結婚した。確かに、毎夜毎夜、視線を感じたが、夜中パッと目が覚めたとき、目の前にあったババァの顔を逆ににらんだ。
私の物が、勝手に移動していることも何度かあったが。同居したお義父さんは、私の味方で、物を隠されても一緒に探してくれたりした。
お義父さんも、死んでも息子離れができない奥さんに呆れているようで、私とお義父さんとの関係は良好だった。所詮、肉体のない幽霊には、夜中に枕元に立って、相手をビビらせるようなことしかできないので、恐れることはなかった。
そして、私が妊娠し、子供ができると、お義母さんの幽霊など、構っている暇はなかった。お義母さんも、可愛い孫の姿を見守るだけで満足したのか、子供が大きくなるにつれて、お義母さんの気配を感じなくなった。