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292 ケントと盗賊の頭

 ケントが、大剣の切っ先を動かす。

 切っ先は、盗賊の頭の首元のすぐ横にあった。

 「お、お頭!?」
 「お頭が、負けたのか……!」
 「お頭!!」

 部下の盗賊達が気づいて、騒いでいる。

 「……」

 盗賊の頭は、首元の大剣に怯えることなく、また、部下の声も聞こえぬふりをして、両ひざを着いたまま、目を閉じている。

 「なにか、最後に言いたいことは?」
 ケントが、盗賊の頭に言う。

 「……俺の、」

 すると、盗賊の頭が、目を開けた。

 「俺の部下達は、もともと、メロ共和国近くにある小国の出身だ。みんな、根はいいヤツらばかりだ。盗賊を、やりたくてやってる訳じゃない。これは、本当だ、信じてほしい」
 「ほう、それで?」
 「死なせたくない。俺の死んだ後、アイツらだけは、助けてやってくれ……!」
 「……承知した」

 ――スッ。

 ケントが、大剣を振りかぶった。

 「お頭ぁぁああ!!!!」
 「や、やめてくれ!!!!」
 「あああああ!!!!」

 部下達の絶叫が聞こえた。

 ――バチィィィイイイイイン!!!!!

 「ぅあ……!?」
 「フッ、殺すか、バカ」

 ケントの、腰の入った大剣の一撃は、切っ先が首元を跳ねる直前、刃を横向きにすることで、平らな刃の側面で盗賊の頭の顔をひっぱたいていた。

 盗賊の頭の首は飛ばず、代わりに意識が飛んで、ドサッと倒れた。

 「みんな、終わりだ!!盗賊の頭は倒した!!」

 ケントが、キャラバンのみんなへ、大声で言った。

 「お頭!!」
 「チクショウ!!」
 「どけ!!」

 盗賊の頭のもとへ、部下の盗賊達がキャラバン達を押しのけて駆け寄る。

 「……」

 ケントは無言で、倒れている盗賊の頭から遠ざかった。

 「お頭、お頭……!」
 「大丈夫だ、生きてる……!」
 「肩持て!!肩!!」

 部下達は、気を失って足元がおぼつかない自分達の親分の肩を抱くと、もう、後ろを振り返ることもなく、退散していった。

     ※     ※     ※

 ――タタッタタッタタッ。

 武器狩りの盗賊達との戦闘終了後、馬に乗って逃げていたムハドが戻ってきた。

 「あっ!ムハド隊長!」
 「いや~、ご苦労、ご苦労」

 ムハドが笑顔で、皆に労いの言葉をかけてゆく。

 「よっと」

 ムハドはケントの前で、馬から降りた。他に、ミトやラクト、サーシャをはじめとした岩石の村の面々もいる。

 「ケント、ボウガンの矢、止めてくれてありがとな」
 「いえいえ」
 「遠くから見てたぞ。久しぶりに、お前の戦いを見た。完全に大剣を使いこなしてた。また、一段と強くなったようだな」
 「うっす」
 「相変わらずの、キザなやり取りも健在だな」
 「ははは!敵を引かせるには、これだよって、教えてくれたの、ムハドさん達っすよ」

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