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第52話 深淵の迷宮⑩

レイラの活躍もあり、なんとか暗黒龍テネブラを倒し、深淵の迷宮地下200階の踏破に成功する。
ここまで7日間しか掛かっていないが、それでも大変は大変だった。

「私と先代様が1年掛かった地下200階を7日間で…」

ゾラスが驚きというかショックというか、複雑な表情で独り言を呟きいじけているが、もし仮にゾラスのいない俺とレイラとエレナさんのパーティーだけであればここまで早い踏破は絶対に無理だっただろう。
そもそもここまで早く来れたのは、エレナさんの飛行によるところも大きいが、それを活かせる地図があるのも同じくらい大きい。

「ゾラスさん、ちなみに先代様とゾラスさんの地図のお陰で最短距離で進めていますし、先代様と同等の力を持つエレナさんを仲間に出来たのは、ゾラスさんが巡り合わせてくれたようなものですし!しかしあの時はビックリしましたねー(棒読み)」

「そ、そうですよね!じゃじゃあ明日からの予定を立てて行きましょう!!」

俺の優しいフォローのお陰でなんとかゾラスが立ち直った。
魔炎龍の討伐依頼の時の自分のミスを思い出して話を誤魔化している訳ではないだろう。


ここまでで一週間が経過、残された猶予は11週間となる。

「幾ら魔王様とエレナさんがいるにしても、ここまでは正直出来過ぎだと思っています。これから地下201以降をここまでと同じペースで進めると考えるのは危険です~」

本来の調子を取り戻したゾラスがパーティーリーダーらしく話し合いを進める。
アルスとセニアがいれば絶対に俺に指示を出させようとするが、ゾラスはあの2人より柔軟に俺の以降を酌み入れてくれるので非常に有難い。

「ここからは地図もない未知の領域に入るので行ってみないと分からない部分が多いですけど、取りあえず今回のこのパーティーでのアタックは1週間で10階ずつ、地下300階までを目標に設定しましょうか~」

方向性は違うが、アルスとセニア同様ゾラスは非常に優秀なリーダーだ。

確かにここからは魔族未踏の迷宮となり敵の強さもフロアの広さも未知数ではあるが、目標があるのとないのではパーティーのモチベーションが大きく変わってくる。
ゴールが分かっているマラソンと、いつまで続くか分からないマラソンでは、結果的に走る距離が一緒でもタイムが全然違うのと同じことだ。

深淵の迷宮がどこまで続くかはまだ誰にも分からないが、パーティーとしての目標を決めるのは自分たち次第である。

「ゾラスさん、ここまで130階でグラウスさんとネクサさんの手伝いをしたことを考慮すると実質稼働日は5日です。そうすると1日あたり40階進んだことになります。もう少し先を目指しませんか?」

仮定の話とはいえ、あまりにも現実離れした目標設定では意味がない。
ある程度の根拠は必要なので無理する必要はないのだが、簡単すぎる目標もまた意味がない。

「しかし魔王様、ここから先は地図がないので、モンスターと戦ったり罠を回避したりしながら、次のフロアへの階段を探す道のりとなります~。今までのようには絶対に進めませんよ~」

確かにゾラスのいう通りではあるのだが、夢に現れた魔神と女神のことがどうしても気にかかる。いくら比較的自由な面子が集まっているとはいえ、そうそう何度も今回のようにまとまった期間集中してアタックすることは出来ないだろう。
なのでできれば今回のチャンスで完全踏破したい。

「ゾラスさんのいう通り不確定要素が多すぎると思いますので、ペースを多少落とすのは賛成です。ただ、地図の問題に関しては解決出来ると思います」

どこまで本気で言っていたのか分からないが、先程の暗黒龍テネブラとの戦いの中でレイラの思惑通り、俺は『心眼』を身に付けた。

通常のフロアと比べると圧倒的にボス部屋の方が狭くはあるが、恐らく俺のスペックであればブラッドレイブン同等程度の広さであれば俺の心眼の対象範囲内に入るだろう。そうすれば地図が無かったとしても引き続き最短で移動できるはずである。

今までの傾向からして龍型のエレナさんの移動する高度での罠は一度も出てきていないので、希望的観測ではあるがこれからも罠の心配がないとすると、残された懸念事項は徐々に強くなっていく敵だけではないだろうか。

「……ちょっとズルい気もしますが魔王様も一応はパーティーの一員ですからね~…」

『一応』ではなく『歴(れっき)とした』パーティーの一員です。
出来るようになってしまったんだから仕方ないだろう。ズルは何もしていません。

「魔王様ズルい!あたしそこまで『心眼』極めてないよ!!」

「い、いや、まだレイラは子供だから仕方ないよ?お、俺はこう見えても大人だから…」

実際レイラの見た目は幼女ではあるものの既に生後50年以上経つらしいが、長寿の龍族と短命な元人間の俺では精神の成長速度に大きな違いがある為、俺から見ればまだまだ子供である。

「まだ生まれてから2年も経ってないくせに何言ってるのさー!」

俺は転生の件も前世の件も関係者にはざっくり説明しているのだが、流石にまだ子供のレイラにはよく分かっていないので、レイラに取っては俺は魔王家の子息、みたいなイメージで捉えられている。

「あらあらあら」

大抵エレナさんが苦笑いする時はレイラを理解させるのは難しいのを分かっているのでもうそれ以上の説明は諦めてゾラスとの話に戻す。

「俺の力はパーティーの力ですよ。実際『心眼』もレイラの提案が無かったら身についていなかったと思いますしね」

「…そうですね。利用できるものは全て利用していくべきですね。ただ、ここからの指揮官は魔王様にお任せしたいです。実際私のアドバンテージも200階まででしたし、先程の我々に対するご指示もシンプルで非常に分かり易かったです~」

本当はそのままゾラスにお願いしていたいのだが、戦闘自体基本ボス戦しかないのでそこまでの負担にはならないだろう。

「承知しました。それならばゾラスさんは先程のテネブラ戦同様回復中心のサポート役として立ち回って下さい」

「かしこまりました~」

「それでは残りの期間、1週間で30階ずつ踏破、地下500階までを目標としてアタックしたいと思います。やってみて目標と現実の乖離が大きい場合は、進捗と残りの期間を考慮しながら目標を修正していきましょう!」

「…承知しました」
「わかりました」
「はーい」
「わんっ」

ゾラスだけは『500階』と言った時だけ一瞬驚いた表情を浮かべたが、それ以外は犬も含めて皆元気に返事をしてくれた。

それでは明日からのアタックに向けて、食事で英気を養うとしよう。

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