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第三十二話 交渉開始


 里の入口となっている、エルフの村に迫った。

「殿下?先ぶれを出しますか?」

「そうだね」

 食料はまだ大丈夫。
 途中で合流した50名が食料を運んできていた。

 エルフの里に伝令を出して、僕たちは野営して返事を待つことにした。

「殿下?」

 僕の天幕には、帝都から連れてきた侍女しかいない。
 僕が帝都から連れ出した者の一人だ。正確に言えば、一緒に居てほしい唯一の人だ。

「何?」

「よろしいのですか?」

「何が?」

 彼女が気にしているのはわかるけど、わからないフリをする。

「殿下・・・。私は、貴族といっても、男爵家の三女です。殿下の側仕えとしても・・・」

 彼女が何を心配しているのかわかる。

「僕が君を選んで、君を求めている。それだけでは不服?」

「・・・。いえ、光栄なことで、私も・・・。殿下のことを・・・。でも、殿下には侯爵の・・・」

「あぁあのゴブリンみたいな顔をした化け物?臭くて、1分も一緒にいたくない」

「・・・。殿下?侯爵家のご令嬢ですよ?」

「そうだね。身分だけは立派だけど、それだけの俗物で、浪費家で、侯爵家以外は奴隷とでもおもっている様な、頭の中にスライムを飼っているようなメスだろう?君は気にしなくていいよ。それに話をした通りに、エルフの里にいるはずの、神殿勢力との話し合いがうまくまとまれば、僕は神殿に移り住む。帝国の力が及ばない場所で君と二人で過ごす」

「殿下」

「それに、もう帝国に戻るのは無理だよ?兄たちの派閥に、僕が逃げ出したと情報を流したからね」

「はい。殿下・・・。私は、どこまでも殿下と一緒に・・・。それが、どこでも・・・」

「うん。大丈夫だよ。神殿は、兄たちが言っているような場所ではないし、王国も悪い場所ではないと思うよ」

「え?」

「神殿の主は、しっかりと話をすればわかってくれると思う」

「・・・。そうなのですね」

 僕は、僕の大切な人の不安を取り除くために、僕が今までに掴んだ神殿と神殿の主の話を聞かせる。

 天幕の中で話をしていると、外が騒がしくなってきた。
 エルフの里に向かった伝令が帰ってくるには早すぎる。

「殿下!」

「どうしたの?」

「伝令が、帰ってきました」

「え?早くない?」

「神殿の使いを名乗る者と一緒です。神殿から提供される、アーティファクトと思われる物と一緒に来ました」

「え?アーティファクト?」

「はい。見たことがないものなので、間違いはないかと・・・」

「わかった。君は、ここに居て」

「殿下。私は、殿下の従僕です。一緒に居ても何もできませんが、殿下の側に・・・」

「うーん。危険はないと思うけど・・・」

「殿下!」

 外からの呼びかけが焦っているように思えるのは、アーティファクトが怖いのかな?
 僕の入手した情報では、馬車と同じで、危険はないと思うけど・・・。

「うん。一緒に来て、でも、僕の近くに居るようにしてね」

「はい!」

 天幕から出ると、ついてきた者たちがそろっている。

「それで?」

「はい。離れた場所で待ってもらっています」

「ん?こちらから要望を出したの?」

「いえ、使者殿が、心配だろうからと離れ場所を指定されました」

「へぇ・・・。それで、使者は一人?」

「・・・」

「どうしたの?」

「使者は、お二人です。しかし・・・」

 伝令に話を聞きながら歩いていると、なにやら見たことがない物が見えてきた。
 あれが、神殿のアーティファクトか?

 大きいな。大型の馬車くらいと聞いていたけど、何台分だろうか?

 それに、大きなアーティファクトを囲むように、小さなアーティファクトが周りを囲んでいる?
 何のために?

「殿下?」

 彼女が僕の袖を引っ張る。
 ”音”が怖いのだろう。僕も、正直に言えば怖いと感じている。

 しかし、使者殿が待っている。”音”を止めてくれとは言い難い。

 ”音”は、ウルフ系の魔物があげる声に似ている。
 もっと規則的に聞こえてくる。うなり声ではない。なんと表現していいのかわからないけど、地面から音が鳴っていて、僕たちを音の壁で攻撃しているような感覚になってしまう。

 僕たちの姿が見えたのだろう。
 先頭に居る三人?の内・・・。男性だろうか?手を上げると、咆哮が止まった。

 本当に、何の前触れもなく、静寂が訪れた。
 本能的に怖いと感じてしまう。

 弱い所を見せてはだめだ。
 笑顔を張り付かせる。見破られても・・・。

 え?
 三人の内、二人は知らない。でも、一人は見覚えがある。

 アラニス・・・。ディアス・アラニス。
 あのアラニスの人間だ。帝国内には、アラニスは存在しない。陛下が完全に排除したはずだ。逃げた?逃げ延びた?生き残り?

 あのアラニスの?

「殿下?」

「いや、何でもない」

 誰も気が付いていないのか?

 アーティファクトも気になるが、それ以上に”アラニス”だ。

 男が一歩前に出る。

「ランドルフ殿下で間違いありませんか?私は、神殿から来ました。カスパルと言います。短い間だとは思いますが、よろしくお願いいたします」

 カスパルと名乗った男は、軽く頭を下げて、手を差し出してきた。

「ランドルフだ。アデヴィトの第三皇子だが、アデヴィトの名を捨てる覚悟で来た。カスパル殿。私の事は、ランドルフと呼んでほしい。それから、伝令からお聞きいただいたと思いますが、私たちは神殿への亡命を希望します。受け入れていただけますか?」

 カスパルは、私の手を離してから、深々と頭を下げた。
 何の意味があるのかわからない。

「ランドルフ殿下。神殿では、ランドルフ殿下を受け入れることはできません。既に、オリビア殿が亡命してきています。二名も帝国の皇族を受け入れることはできません。神殿の主である。ヤス殿の言葉です。しかし・・・」

 オリビアがしっかりと喰い込んでいるのだろう。
 そうなると、僕の亡命は難しいと思っていたのだが、悪い方の予想が当たってしまった。

「しかし?」

「その前に、殿下に二人を紹介したいのですが、よろしいでしょうか?」

 アラニスとエルフの女性のことだろう。

「お願いする」

「ありがとうございます。殿下の後ろの女性は?」

「そうだな。先に、アンネラを紹介させてくれ、アンネラ。カスパル殿にあいさつを」

「・・・。はい。カスパル様。ランドルフ様の従僕の、アンネラです。家名は捨てましたので、ご容赦ください」

「わかりました。殿下。妻のディアナとエルフの里で巫女候補のまとめ役のラフネスです。二人から、それぞれ殿下にご提案があります」

「提案?」

「はい。その前に、アンネラ殿には、提案をお聞かせして大丈夫ですか?」

「問題ない。アンネラは、私の半身であり、ともに歩む者だ」

 僕の答えが分かっていたかのように、カスパルはアンネラを見てから笑顔を見せた。

「ありがとうございます。部下の方々は?総勢47名のようですが?お一人は、こちらで拘束させていただきました」

「え?」

「第一皇女の紐がついていた者です。あとで、お引き渡しいたします」

「は?」

 第一皇女?姉の紐?密偵?
 見回すが、全員がそろっている。しかし、確かに、人を数えれば足りない。僕の記憶にない者なのか?それが、なぜ神殿にはわかった?手がどこまで長い?

「殿下への提案の前に、気になっていらっしゃることをお伝えします」

 気になっていることが多すぎる。

 大きな箱型のアーティファクトに入れられているのは、姉さんたちの私兵と公爵家の者たちだ。
 エルフの里を攻め落として、神殿と交渉するとか言っていた者たちだ。

 生かされているだけではなく、捕らえられて、この場に連れてこられている?
 何か叫んでいるように見えるが、声が聞こえてこない。

 面倒な予測しかしないが、初めから勝ち目のない交渉なのだ、一つや二つ、不利な状況が追加されても・・・。胃が痛い。こんなことなら、オリビアの前に帝国を脱出して、神殿にいっていれば・・・。

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