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第50話 深淵の迷宮⑧

冒険7日目-


我々は予定通り連携を確認しながらボスを順調に倒していき200階に到達した。
現在、恐らくボス部屋であろう部屋の手前で一息ついている。時刻も夕方に差し掛かっており、ボスの討伐に成功しても今日はここでテントを設営する予定である。

ちなみに『恐らくボス部屋』というのは、部屋の中が暗闇に包まれており、ボスの姿を確認できていないからだ。

先代魔王と討伐しているゾラスは何が待ち構えているか分かっているんだろうが、事前に命に関わるような致命的なミス等でない限り助言は不要と伝えてある。また、その上でゾラスが助言をした場合は、自分たちの実力不足と受け止め、今回のチャレンジは終了とする事で全員理解している。

「アドバイスとかでは全然ないんですが、200階のボスは純粋に強いです~。そのうちグラウスとネクサは200階までは踏破出来ると思うんですが、余程劇的なイレギュラー要素が介入しない限り、200階のボスは倒せないと思います~」

「それでこそ私のライバルね!シャイニングマッスルを早くお見舞いしたいわ!!」

「あらあらあら」

どんな存在かも知らないのにレイラのライバルにされた200階のボス。先代魔王と冒険者のコンビを組んでいたゾラスにここまで言わしめる存在だ、絶対に油断できない。

油断は出来ないが、140階からのボス全ての討伐を通して、連携を確認・強化してきた我々にとって倒せない敵ではないと思いたい。


ちなみに、160階のボス『忍者オーク』の討伐後、珍しく厳しい表情のエレナさんにレイラの件で抗議を受けた。

忍者オークという名は討伐後にゾラスから聞いたのだが、見た目はほぼ普通のオークと変わらず愚鈍に見えるが、実際は残像を残すくらい素早い身のこなしを持っていた。

「いっくよーーー!」

パーティーの火力の中心としてそこまで非常に順調に進んでいた為、油断もあったのだろう。見た目で相手を判断してはならない、戦場において当たり前の事ではあるがその当たり前のことができていなかった。

忍者オークに対し馬鹿正直に真正面からレイラが拳を放った直後、忍者オークはその見た目からは想像もできないスピードで拳を躱しレイラの背後に回り込むと同時に腰の短刀に手を掛ける。

が、あるはずの短刀が見当たらず忍者オークは思わず自身の腰を確認する。
申し訳ないけれども、探し物は俺が回収させて貰った。レイラを危険に晒す訳にはいかない。

レイラから思わず視線を外してしまったその隙を見逃すほど、レイラは戦闘に慣れていない訳ではない。
今度こそレイラの右拳が忍者オークの腹を貫いたのだった。

結果だけ見れば危なげなく勝利したはずだったのだが、エレナさんはその戦いを母親ならではの目線で見ており、ある種俺のレイラに対する『過保護』ぶりを問題視したのだ。

エレナさん曰く、なんでもかんでも俺が陰ながらサポートしてしまってはレイラの為にならない。俺が一生レイラのサポートを出来る訳でもないのに、無責任なことをしないで欲しい。俺のやっていることは親切なようで、レイラをこの先一人で何もできない魔族にしようとしている。

またやってしまうところだった。
こんな調子じゃ偉そうにアルスとセニアにアドバイスなんかできないな。

エレナさんは俺に一通り抗議した後、俺への不敬として如何なる処分でも受ける、と覚悟の籠った目で訴えかけてきたがそんなことできる訳がない。
明らかに間違っているのは俺なので、詫びるべきは俺で、エレナさんには感謝しかない。本当にありがとうございます。

ということがあってからは、レイラに対してもリカバリーが聞く範囲では敢えてサポートせず痛い目に合わせたり、サポートするにしても必ずミスを指摘するようにした。

元々レイラに自信を付けさせたかっただけなのだが、俺がエレナさんからの抗議を受けサポートの仕方を変えてからの方が、目に見えてレイラが成長していくのが分かった。
やはり母親は偉大だ。


そして現在に至る訳だが、さくっと倒して晩飯の準備に取り掛かろう。
明日からは地図もない未開の地を進むことになるので、より一層厳しい冒険となることだろう。

「ゾラスさん、作戦はどうします?」

「魔王様、ここのボスだけは一旦指揮官は魔王様にお譲りします~。このボスの場合、パーティーに対する指示自体がヒントになりそうな気がします」

俺はパーティーの指揮官であるゾラスに作戦を確認したが、ゾラスに丁重に断られた。
確かにゾラスの言うことは一理ありそうだ。
明らかに今までと様子の違うボス部屋、情報を持っているゾラスが出す指示はそれだけでボス攻略の手がかりになってしまいそうだ。

「じゃあ200階のボス戦だけは俺が指揮官とサブアタッカーを兼務します。ゾラスさんはエレナさんと一緒にサポートをお願いします」

「「承知しました」」

作戦といっても未知の相手に対してやれることは限られてくる。

まずはボスから多くの情報を引き出す為、一番防御力の高い俺を先頭にボス部屋に入ることにする。しばらくは自分達からの攻撃は控え、ボスの行動パターンを観察してその後の予定を立てる。

「レイラは俺の少し後にボス部屋に飛び込んで、それと同時に必殺技の詠唱を始めてくれ」

「承知だよ!」

「じゃあ皆、くれぐれも無理だけはしないようにお願いします!」

「承知しました」
「わかりました」
「はーい」
「わんっ」

犬、お前には言っていない。存在忘れてたわ。

それでは行きましょう。

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