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第48話 深淵の迷宮⑥

その後、我々は俺が倒したファントムスライムが再度出現するまで24時間の間、グラウスとネクサの攻撃を合わせる訓練を行ったり、レイラが2人必殺技を伝授したりした。

ゾラスとエレナさんにもいくつか必殺技候補となる画像を紹介した。

エレナさんには是非とも、中二病の走りと言っても過言ではない、邪王の黒い龍を相手に向かって放つ必殺技を使って欲しかったが丁重に断られた。

一人の親としてやるべきではないと判断した、と真剣な眼差しで断られたときは何故か胸が痛くなり、久し振りに前世の両親の顔を思い出した。

俺の心にダメージを負わせた結果エレナさんが選んだのは、対象の身体の一部を両手で掴み力一杯圧縮して破裂させる、という技だった。

これはもう魔法とか詠唱とか全く関係がないただの物理攻撃だ。

ちなみに、レイラが畑仕事の合間にアルスやセニアに稽古を着けてもらっている時、エレナさんも一緒に身体を動かしたりしているうちに人型の状態でもかなり戦えるようになってきていた。

また、人型で戦うことで、龍型ほどではないがある程度『力の発散』が出来ているようだ。
これでレイラが成体の龍になった時、自分と同じ悩みを抱えさせずに済むかもしれないと涙を流し喜んでいた。

両手で力一杯握る技を、腕だけ龍型にすることで文字通り対象を飛散させていた。
まだ無機物の岩とかでしかやっていないが、生物相手にやる技ではない。完全にR指定だ。

ゾラスには「ギャラクティカパーンチ」といって相手を力一杯殴る様にアドバイスしておいた。

お前のせいでまたレイラに無視されているんだからな?





「「皆さん本当にありがとうございました」」


あれから24時間待ち、ファントムスライムが再度出現。
我々一向に向かってグラウスとネクサが深々と頭を下げ、ボス部屋に入っていった。

熱くなったネクサが一目散に駆け寄るが、

「ネクサくーん、必殺技だよー!」

ネクサはレイラの方に視線を送ると無言で頷き深く息を吸いゆっくりと吐き出す。

「俺の上腕二頭筋が光ってキレる…ダンベルカールで輝きキレる…」

ネクサの二頭筋が淡い光を帯び始める。
輝きはレイラには及ばないものの、詠唱の通り、筋肉が尋常ではない程キレている。
ちなみに詠唱の意味は考えないことにしている。

「……シャイニィィィィンンングゥゥゥマッスゥゥゥウウウ!!」

ネクサの強烈な必殺右フックがファントムスライムにヒット。
しばらく蠢いていたスライムだが想定通り2体に分裂した。

「語呂はまだまだだけど、ナイス筋肉だよーネクサ君!」

幼女に筋肉を褒められて喜ぶ優男は完全に事案だと思うのだが、この世界では見た目は当てにならないからなのか、騒ぎ立てる輩はいない。
日本の変態どもが全員この世界に転生されればそれはもう幸せな人生だろう。

ネクサが少し鼻の下を伸ばしている気がするが、我が娘(ではない)を邪な目で見るのであれば貴様は我の敵であろう。この戦が終わったら貴様に地獄を見せてやろう。

問題はここからだ、如何にスライムの分裂を抑えながら討伐できるか。
理論的には2人の攻撃を完全に合わせることが出来さえすれば2体で終わるが、昨日の今日ではそんな簡単な話ではない。

「集中だよー2人ともー!」

ゾラスの声が響く。
昨日の状態のネクサであればその声は届かなかったであろうが、必殺技の決め台詞のおかげかは不明だが今日はしっかり落ち着いている。

「グラウス…今まで世話掛けて済まなかったな…」

「何を言ってやがるwこれからも掛け続けるだろうよww」

「違いない…フフフ。じゃあ面倒ついでに俺に合わせろグラウス!」

「あいよ!!」

魔族の冒険者コンビがあからさまにフラグを立てているが平気なのだろうか?

「俺の上腕二頭筋が光ってキレる…」
「俺の大臀筋が真っ赤に燃える…」

「だ、だめ!語呂が違い過ぎる!!」

2人の必殺技の詠唱に対し、師匠のレイラが思わず叫ぶがもう遅い。

「……ダンベルカールで輝きキレる…」
「…サイドレッグサークルで轟き叫ぶ…」

こいつらは真剣な顔して何を言っているんだろうか。
それを見守るギルドマスターと龍の親子も大概である。

「……シャイニィィィィンンングゥゥゥマッスゥゥゥウウウ!!」
  「……シャイニィィィィンンングゥゥゥマッスゥゥゥウウウ!!」

2人の必殺技がそれぞれの対象スライムにヒットする。
攻撃のタイミングがずれた為、攻撃が遅くなったグラウス側のスライムが分裂する。
幸い攻撃の威力は十分だった為、ネクサのスライムは消滅したのでスライムの数は変わらない。

「あらあらあらw2人の筋肉の語呂が悪いから、グラウスさんはハムストリングスにしたらどうかしら?」

「うんうん、流石母様ね!それならばトレーニング内容はデッドリフトでやってみて!」

「「はいっ!!」」

この伝説の魔炎龍の親子は本当に何を言っているんだろうか?
現在唯一のレジェンド級冒険者のギルドマスターも真剣な顔して見守っているし…俺がおかしいのだろうか?

グラウスとネクサはお互い視線を送り頷き合う。

「俺の上腕二頭筋が光ってキレる…」
「俺のハムストリングスが真っ赤に燃える…」

悔しいが今度はここまでタイミングはピッタリだ。

「……ダンベルカールで
「……デッドリフてぃよ

「ま、まずいグラウスが噛んだ!」

思わずゾラスが叫ぶ。
恐らく2人の体力的に必殺技は打てて2回が限界、確かにここでのグラウスのミスは手痛い。

しかし周囲の焦りとは裏腹に2人は非常に落ち着いていた。

で輝きキレる…」
で轟き叫ぶ…」

あのネクサがグラウスの詠唱に合わせる。
2人は互いに一呼吸おき、

「「……シャイニィィィィンンングゥゥゥマッスゥゥゥウウウ!!」」

完璧なタイミングで必殺技をスライムに向かって放った!

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