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 僕は、人と目を合わせられない。
 とてつもない不安に駆られ、手が震えて、冷や汗が出てくる。
 目を合わせる以前に、他人の視線が怖いのだ。
 人は皆、僕のことを冷ややかな目で見ていると想像し、変な行動したかな?、格好が変だったかな?、と、余計なことまで考えてしまうのだ。

 その生活に疲れきって、僕は引きこもりになった。
 家から出なければ、誰からも見られることはないからだ。
 しかし、そんな生活をしていたら、今度は家族の視線にさえ、気持ち悪さを覚えた。
 今まで一緒に暮らしていたはずなのに、拒絶し始めた。

 家に居場所がなくなり、外には出たくなく、僕の居場所は、強いて言えばベランダと小さな庭。
 雨の日は、屋根のあるベランダで。
 晴れの日は、庭にいた。

 そんな僕の居場所には、いつも先客がいる。
 偶然なのかルーティーンなのか、その先客は、いつも僕のことを見つめてくる。
 しかし、苦ではない。
 拒否反応もない。
 舐めるように僕を見つめてくるのにだ。

 ベランダの先客は決まって鳥たち。
 餌付けをしている訳でも巣がある訳でもないのに、雨宿りに来ているのだろうか、いる。

 庭の先客は猫。
 野良猫の通り道なのだろうか、我が物顔で庭を歩いている。
 ちょっかいを出すと、めちゃくちゃ見てくれて可愛い。

 人に見つめられると、本当に気持ちが悪くなるのに、こういつ動物に見つめられると心が軽くなる。

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