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250 砂漠にて

 キャラバンの村では、メロ共和国の交易へと向かうための準備が進められていた。

 ムハドのキャラバンとしての交易復帰ということで、ラクダの交易のついでに、村はにわかに活気づいて、今回の交易に期待する声が高まっていた。

 その声を、ムハドは、いや、今回はただのラクダの交易だから、と、少し困り顔に、それでも嬉しそうに、皆の声を受け止めていた。

 そんな中、マナトは、キャラバンの村には、いなかった。

 いまは、陽光照りつける、砂漠の上。

 ――ザッ、ザッ……。

 歩を進める度、細かい砂の粒子が、足下で小さく舞う。その粒子はやがて、またもとの砂漠に溶け込んでゆく。

 ……このヤスリブの地は、もともと、砂漠ではなかったかもしれない、か。

 マナトは思い出していた。前に岩石の村に行ったとき、村の住人であり彫刻家であるシュミットから聞いた話だ。

 どの世界でも、神話のような話はあるのだと、あの時はしみじみと思いながら、彼の話を聞いていた。

 混沌の世界。

 原初の母、ティア。

 神と僭称する者。シュミットによると、それはジンではないかという説がある。

 クルールや、ウシュムなど、各地方の名を冠する守り神たち。

 この世界がどうしてつくられ、どういう歴史をたどってきたのかに思いを馳せるというのは、かつてマナトがいた世界の人々も、このヤスリブの地に生きる人々も、変わらないのだろう。

 「……」

 マナトは、周りを見渡した。

 「あっ、これ。これって、どこで採れるんだ?」
 「う~ん、どこだろ……」

 ミトとラクトが、いつかの交易で見たときのように、2人でなにやら木片書簡に目を落として話し合い、ながら歩きしている。

 ……車にぶつかる心配ないし、信号もないから、まあ、いいか。

 また、ラクダ数頭に、先頭には、隊長のケント。最後尾には、ムハド大商隊で副隊長の、リートが同行している。

 この5人だけ、もう一つの依頼である、岩石の村の運搬依頼のほうで動いていた。

 もう、3度目となる、鉱山の村へ。

 マナトは真ん中あたりを歩いていたが、少し進んで、ケントの横につけた。

 「鉱山の村で、合流するかたちなんですね」
 「ああ。鉱山の村はちょうど、岩石の村とキャラバンの村の、ちょうど中間地点くらいに位置しているからな。ちょうど、合流地として、ちょうどいいんだ」

 今回の、一緒に、岩石の村からもサーシャとシュミットも、メロ共和国に一緒に行くことになったのだ。

 「岩石の村の彼らと面識があるのは、俺たちだからな。合流して、一旦、キャラバンの村まで連れてくるようにって、長老に言われてな」
 「なるほど」

 すると、後方で、声がした。

 「な~に、見てるんすか?」
 「あっ、リートさん」
 「これ、キャラバンの村の、交易依頼とは別の、なんかついでに手に入れてきてほしい的なお願いが書かれたヤツです」
 「へぇ、どれどれ……」

 ……砂漠の、ちょっとしたお散歩だな。

 そんな感じに、マナトは思った。

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