バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

47.安菜の決意

 空中にとどまる黒い点。
 そこから薄い黒が広がっていく。
 水に1滴たらした墨みたいだ。
 雨の影響は受けてないみたい。
 ポルタが膨らんだ。

 ウイークエンダーの右足を引く。
 左腕をメインカメラのある頭の前で盾にする。
 右手は、いつでもパンチを放てるよう後ろに引いて。
 レーダーがポルタのなかに巨大な金属の反応を見つけた。
 こっちへ飛んでくる?!
「ジャンプするよ!」

 ポルタが、一気に膨らんだ。
 上下に、音もなく。
 
 ウイークエンダーの背中と足から、ブースターの火を放つ。
 同時にちぢめた足を、一気に伸ばす!
 雨がまい上る!
 グッ! と全身が下に押し付けられる!
 それは、体重の10倍近い衝撃で!

 加速が終わり、衝撃が体からはなれた。
 スカートを広げて、空を横滑りする。
 さっきまで私たちがいたところは?
 砕けて、土煙をあげて、消えていた。
 あれが、レーダーに映った物?
 鉄らしい、灰色の棒。
 ウイークエンダーの腕くらいの太さのそれが、山肌に突き刺さってた。
 それも2本。
 あれが、グルグル回転しながら飛んだんだ。
 もし1本目を受け止めても、2本目に叩きつぶされるように!
 
 みつきが動いた。
『爆砕シールドを使う!
 ディメイション・フルムーンより!』
 白い背中が大きくわかれていく。
 左右にのびるレールにのって、装甲に隠された機能が展開する。
 爆砕シールドは心強いよ。
 空気に強烈なマイクロ波を流すと、空気は高温のプラズマになって爆発する。
その爆発を熱と衝撃の装甲として、攻撃を潰すことができる。
 
『ファントム・ショットゲーマー、上空からの監視に入ります』
 パーフェクト朱墨が飛び立った。
 一気に不振ポルタの上へ、私たちを追い抜いて。
 訓練場を見下ろして旋回する。
 雨粒はかき混ぜられ、パーフェクト朱墨の周りを霧みたいに隠していく。
 さらに加速して、急降下!
 ポルタをかすめる。
 鋭い軌道で、上空へ帰っていく。
 それをくりかえす。
 自分を囮にして、攻撃を引き受けるつもりだ。
 これでは賭けだよ。
 でも、無傷でできそうな、すばやさ。
 うらやましい機動力だよ。

『訓練、中止!』
 大人の女性の声がひびいた。
 朱墨ちゃんのママだ。
 この声は、ウイークエンダーとディメイションの外部スピーカーからも流れているはず。 
 訓練していた人たち。
 泥まみれの山肌の、平地も2段目も3段目も埋めていた動きが、一斉に止まった。
『百万山市の訓練場の上空に、不振なポルタが発見されました。
 訓練は中止。
 至急、避難してください!』
 
 布張りのビルから、人が飛びだしてきた。
それまで大事に運んでいた、けが人役の人形を放りだして。

「私たちはこのまま、監視、必要なら戦闘。だよね」
 安菜、そこまで承知してくれてたんだ。
 さっきのジャンプに悲鳴も言わなかった。
 ここが安全だと信じて、自分だけ逃げようも思わない。
 ありがたいと思う。
 戦う準備は問題ない。
 武器弾薬を運びこむのは、訓練として認められてる。
 土砂災害だと思って来たら、怪獣が現れた。
 なんてことは、あるあるだから。
 今、訓練場を走り回ってる人たちだって、高いわりあいで持ってきてる。
 だけど。
「安菜。はーちゃんの電源をおとして」
 私の言葉に、鎧ごしでもギョッとしてるのがわかる。
 私が恐れてるのは、はーちゃんを通じて、こっちの動きが筒抜けになること。
 つまりスパイだよ。
「あのポルタが文華の仕業だとは、わからないでしよ?」
 やっぱり逆らわれた。
 そうだ。私は知ってる。
 安菜が破滅の鎧をまとうために、どれだけの努力をしたか。
 私のように幼い頃から、巨大人型兵器なんかいじってると忘れそうになる。
 それを動かすのに、どれだけ技術や知識がいるのか。
 だいぶ簡単にしたとはいえ、安菜はそれを覚えるのに、よく耐えた。
 だけど。
「この訓練にあわせて、はーちゃんが送られてきたのは、確定でしょ」
「はーちゃんが知らなくても、そのくらい予定表を見ればできる」
 そうすると、こっちの人間にスパイがいる可能性がでてくるけど。

 人を乗せた車が、次々に走り去る。 
 自衛隊の仮設橋は取り残されて、乗せてきたトラックが走りだす。
 まだ動かないのは、消防のはしご車だ。
 はしごをたたまないと、走れない。
 
「安菜さん。僕はかまいません」
 まさか! いえ、それが信頼の証なのか。
 はーちゃんから言いだした。
「お早く!」
 安菜はなやみを、短く打ち切った。
 はーちゃんの上半身の前が、ガシャッと前へ倒れ込んだ。
 装甲が開いたんだ。
 中から現れた安菜は、私とおなじ対Gスーツを着込んでる。

 訓練場の出口で渋滞してる。
 谷間を車2台がギリギリすれ違える道に、大型車が殺到してる。
 
 座席に固定されたはーちゃんの背中。
 そこから延びたシートベルトが安菜を支えてる。
 天井から酸素マスクがおりる。
 安菜はマスクに目もくれなかった。
 装甲の内側の、胸の前に現れたふたを開ける。
 その奥にあるスイッチを、力一杯押し込む。
 私は報告を待つ。
「電源、切れた。確認」

 はげますなら、すぐにだ。
 安菜の目に、信頼の光が宿れば良いと願いながら。
「大丈夫。私があんたの力だよ」
 私が一度言ってみたかったセリフ。
 でも、後ろをふりむくのが、なんか恐い。

 朱墨ちゃんとアーリンくんは、賭けに負けた。
 私に向かったのと同じ棒が、ポルタから飛びだした。
 あれは、こん棒かもしれない。
 その行くさきは、訓練場の出口!
 道を叩き潰すつもりだ!
 だけど、こん棒は白い光によって弾かれた。
 爆砕シールド!
 光は止まることなく、一気にふくらんだ。
 その衝撃は、逃げる車や人をゆらした。

しおり