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高威力合戦。




 ギャ──





    ──イィィイイイッンン…っ!!



 あれからどのくらい経ったのか。阿修羅丸の右腕と俺の木刀が唸りを上げ、


 ──ギリィィイイイイッンン…っ!!


 こうしてぶつかり合うのは何度目だろうか。

 しかし拮抗するのは一瞬だけ。威力においては前回述べた通り、阿修羅丸の方に軍配が上がる。しかも大幅に。

 というか、張り合うつもりは元よりない。捌くのに集中してる。そもそも観察を目的でやってるからな。

 といっても一瞬の拮抗の後は俺に向けて傾くからな。中々にスリリングな観察と言える。

 しかもそれは衝撃波となって押し寄せて来んだからな。とんでもない威力だ。

 まあその衝撃波も攻撃を逸らす次いでに回避出来るからいいんだが。

 にしたって背後を見れば地面や壁に亀裂が…いや、天井にまで達してるな。これ。

「…なるほど」

 確かに凄い。けど。


「やっぱりだ。見えたぞ阿修羅丸」


 お前の弱点がな。


 それはやはりの、経験不足。


 今回、互いに攻守を切り替えたりしながらじっくりと観察してみて分かったんだが。

 阿修羅丸の攻撃には不意打ちとカウンターと全力の一撃。この三つしかバリエーションがない。

 といっても不意打ちを仕掛けてきたのは一度きり。その一度で俺には通用しないと分かったのなら、賢い奴だ。

 カウンター攻撃は出が速くしかも範囲攻撃になるくらい威力がある。

 だから中々付け入る隙がなかった…というか、ちょっとちょっかいをかけてみたら速攻で殺られそうになった。

 だからこちらから先に攻撃するパターンは諦めた方がいい。

 そんな消去法のもと、今は全力攻撃に絞って技の解析を急いでる訳なんだが。

 『攻』魔力が俺の倍近くあり、『速』魔力だって150も上、肉体性能においては遥かに上の阿修羅丸が繰り出す全力だ。

 威力は勿論のことスピードだって半端ない。まさに一撃必殺と呼ぶに相応しい。

 でもな、

「来ると分かってしまえば…」

 そう、こちらから何もしないでいると必ずこの全力攻撃をしかけてくるからな。流石に分かる。

 『必ずこれが来る』と分かってしまえばな。なんだって簡単になる。

 一つに絞って注視すればいいって事だからな。出のタイミングや角度など予め分かっているなら尚更だ。

 そう、阿修羅丸の攻撃はあまりにも捻りがなかった。単調過ぎた。

 コイツがそんな無防備に技を繰り出してしまうのは、この全力攻撃が強力過ぎて工夫する必要がなかったからだろう。

 確かに。奴が今まで戦ったのは同族の餓鬼ばかり。あの中にこれを避けられるやつがいるとは思えない。だからこうなるのも無理はない。

 しかし、攻撃力だけで倒されるほど俺は甘くない。どんな技も予測出来てしまえば対処法はいくらでも浮かぶ。

 実際見ての通りだ。回避、もしくは捌くだけなら簡単に出来てしまう。

 あと気付いた事と言えば、阿修羅丸は【韋駄天】のような加速系スキルを持ってないし、器礎魔力を掛け合わせて相乗効果を生み出す事も出来てない事かな。

 対する俺は『速』魔力と『知』魔力の相乗効果で演算能力を加速させ、動体視力や反射速度を強化しながら、『攻』魔力と『技』魔力の相乗効果でスキルを並列起動するなど、様々な技を複合させる事でこんな無茶苦茶な動きを無理なくコントロール出来ている。

 さらに言えば攻撃に緩急を付けて敵に動きを読まれにくくするのは勿論、読まれてもいいように器礎魔力の出力も緩急付けたりしてるし、これは意外と難しい技なんだが【韋駄天】などのパッシブスキルのオンオフも切り替えたりと、数段構えのフェイントを用意している。

 ふ、ふ、ふ。考えなしにグルグル回るだけの男じゃないのだよ。

 もしそうならこうやって人の事を言える立場になかった。

 この回転技も隙だらけのロマン砲としてお蔵入りにしてたはずだ。

 そう、この技はただスキルという便利ツールに従って肉体と魔力を間接的に操つるだけでは、戦技として成立しない。

 意識して器礎魔力を掛け合わせ相乗効果を発揮させる…だけでも駄目だ。

 その効果で肉や骨や神経は勿論、呼吸や血流にいたるまで。

 しかもその細部にわたって緻密に操作出来て初めて、安定して使える代物。

 コモンスキルが色々と生えてたのはその副産物に過ぎない。

 まあ、そのおかげでさらに強化され、さらに安定して使えるようにはなったけど。

 前世の俺は様々な戦闘を経験し、その度に自分の弱さに挫けそうになりながら、それでも戦術に工夫を凝らして戦っていた。

 だからこれくらいはお手のもの……なはずない。前世の経験と今世で一新したステータス、その両方がなかったら実現しなかったろうし、やってみようとも思わなかったはずだ。

 そもそも阿修羅丸は、俺の真似をして強くなった。

 その動きは隻腕というスタイルに合わせアレンジされてはいるが、結局は俺の模倣で、悪く言えば劣化版だ。

 前世の知識を元に一から発想し、自力で身に付け、短期間とはいえ試行錯誤を重ねて強みや弱みを既に洗い出している俺が冷静になって見ればな。

 読みやすいの一言だ。経験の差というものはこれほどにものを言う。

 だからこれから反撃の時…とはいかないのが実際の戦闘なんだよな。

(そうなんだよ…避ける事は可能なんだ…でもなー、避けながら懐に潜り込む事が出来そうにないんだよなー)

 つまり、攻撃の糸口が見えない。攻められるばかりで反撃出来ない。

 さっきの攻防を見てもらえば分かる通り、コイツの攻撃は余波だけでダンジョンの地面や壁に亀裂を入れる程の威力がある。

 そんなものに巻き込まれてしまえば体勢を崩すだけですまない。

 俺の分厚いだけの【MPシールド】じゃ簡単に貫通されてしまうだろう。

 直撃すれば即死。芯をずらして致命傷。かすっただけで大ダメージ。

 という訳で回避からの反撃は悪手だろう。攻撃を見据えて回避するならギリギリで避ける必要があるからな。

 それでも挑んでかすって重傷でも負ったら目もあてられない。これ程のスペック差に加えて負傷まで抱えては確実に勝てなくなるからな。というか、逃げられず仲間もいないこの状況では、死を意味する。

 ではさっきやったように木刀に纏わせた魔攻でパリィすればどうか。

 なるほど、直撃する事はなくなるだろう。衝撃波も逸らす事が出来る。

 だがその威力はやはりの厄介。さっきだって押し込まれたし。

 そんな状態で無理矢理踏み込んでも相手には丸見えだ。あの鋭いカウンター技の格好の餌食とされるに違いない。

 それが当たったらもう大ダメージで済まなくなる。死んじまう。 

 つまり、阿修羅丸の弱点なら分かったが、その弱点を補って余りある威力を前に結局の手詰まりとなっている。

 だから。まずは。

 あの威力を何とかしなくては。

 という訳で。

「るおぅらっ!」

 ギャガアアアアアアッ!

「ぎ、ぎぃっ!」

 もう避けない。捌く事もしない。カウンターも狙わない。

 俺は攻撃特化の紙装甲。回転技なんて大技を軸としていたのもそのためだ。

 ならば?

 初心に帰ればいい。
 攻撃に全てを賭ける。

 ただし攻撃対象は阿修羅丸じゃない。

 ヤツの右腕…じゃなく右手。

 普通と違って武器と呼んで差し支えないほど硬く、その凶悪な攻撃性能は言わずもがな。それを象徴するようにバカデカいあの右手。

 でもそれって結局の生身であり、当てやすくもあるって事で。

 しかも阿修羅丸が俺のスピードに合わせられる攻撃は、その右手からしか繰り出せてない。実際さっきから右手一辺倒だ。

 生身でしかも的がでかく、何度もきてくれるなら狙わない方がおかしい。

 え?生身でも硬いもんは硬い?

 なら、一撃で終わらず何度もダメージを蓄積させればどうだろう。

 おあつらえ向きに、俺が今使ってる木刀はそれをするためにあるような武器となっている。耐久値が高く、削られても回復させる事が可能なんだから。

 つまり俺が今からしようとしているのは、敵の攻撃そのものを攻撃するという変則のカウンター。

 勿論、真正面から打ち合ったりしない。

 阿修羅丸の攻撃は芯を食わないように打点をずらしながら、俺の攻撃はしっかり食い込むように。つまり、捌くというより打ち落とす感じか。

 え?ああ、

 確かにこれは乱暴なやり方だ。

 奇抜なだけに見えるだろう。

 事実、完全な策とは呼べない。

(実際、あの衝撃波は食らうことになるんだから)

 でもこの戦法では俺も全力で攻撃するからな。つまり衝撃波についてもある程度相殺は出来る。

 多分、【MPシールド】を削られるぐらいで済むはずだ。というか、そうじゃなきゃ困る。

 つまり肉体にダメージは食らわないが【MPシールド】は削られる。それは俺が使えるMPも減る事も意味する。

 そしてヤツを倒す前にMPが枯渇すれば、俺の負けは確定する。

 ヤツの右手と俺のMPのどちらが先に音を上げるかで勝負が決まる。
  
 結局のチキンレース。
 無謀な駆け引き。

 でも、
 だからこそ、

 勝機がある。
 
 そう、阿修羅丸の弱点といえば経験不足。何と言っても生まれたばかりなんだからそうなる。経験が圧倒的に足りてないのは絶対に間違いない事。

 駆け引きを得意としている、訳がない。

 逆に言えばこの無敵なネームドくんの弱点なんて、それくらいしか思い付けない。

 だったら『せめて』ってやつだろ。

 弱点が少ないなら徹底的に突いてやらねば。

 でもなー…。


「はぁー~……(※深い溜め息)」


 こんなのが今思い付く一番堅実な策だってんだからマジ、泣けてくる。

 でもこれでお分かりいただけたかと思う。今の状況がどれ程ヤバいか。


 それでもやるしかない。



 ──ガゴォオオオオオオンンンッ!!



  ・

  ・

  ・

  ・

 かくして。



 この戦法は見事に嵌まった!







 …なんて事には、ならなかったのである。


  …残念ながら。

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