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複合武器について。



 餓鬼というモンスターは個体として見れば弱い部類だ。

 弱いゆえに遭遇する時は大体が群れていて、それは相当な数となる。

 そしてコイツらはいつも飢えてて何でも永遠に食らい続ける。

 人や動物や作物や木材や革製品や繊維類エトセトラ、こんな農村なら甚大な被害が出る事は必至だし、食えるものがなくなれば共食いすら辞さない。

 そんな見境のない狂暴さに貪欲さまでプラスした習性からか、レベルアップが異常に早く、それに準じて進化も早い。

 でもその積極性ゆえにコイツらは潜伏というものをしない。なので日頃から見つけた先に始末しとけば何とかなるものなんだが…それをサボると目も当てられない状況になる。

 というか。まさに今がその状況だ。耳をすませば近い遠いに関わらず、そこかしこから餓鬼の声が聞こえてくる。

「到着早々これか…っ」

 と苛立ち紛れ、車内に飛び込んできた一匹目の首を空中でキャッチ、即座にへし折ってやった!

 ゴキッ!「うぎゅっ!」

 動かなくなったそれを投げ捨て緊急停車!ドアを開ける手間も惜しんで飛び降りる、ついでにっ!

 ドキャ!「べぎゃ!」

 地を這うように迫っていた次の餓鬼!そいつの首も踏み抜いておく!

 と、その足にまた別の餓鬼が噛りついてきた!

 …まったくもって忌々しいが、この個体はレベルが低過ぎた。俺のMPシールドを中々貫けずにいる。なら貫かれる前にと、上半身を捻り上げる!生まれた螺旋を足首、集中させる!

 ゴキゴゴキッ!「げゅぅっ!」

 噛り付いたまま螺旋に巻き込まれて脛椎を砕き折られてその餓鬼は即死した。

 それでも離さない。ならばと腹と太ももが密着するほど脚を振り上げ、ブンッ!振りほどく!

 その死体は車を跨いで飛んで──

 ドカッ「きぃー!」

 ──同じ餓鬼にはね除けられた。

 しかしぞんざいに扱われた骸に呪いでもかけられたか、その餓鬼は硬直して──いや、こうなったのは跳ね除けた先にまたも視界を埋めるものがあったから。

 それは、俺の爪先。

 そう、俺は振り飛ばす動作を次の攻撃に繋げていた。骸を追うように車を飛び越え、その餓鬼へと飛び蹴りを──

 ズブりッ!「う、びょ、、!」

 命中させる。四本目の首砕き。

 どうやらこれで、餓鬼の襲撃は途絶えたよう。でもそれは一時的なものに過ぎない。遠くからまだ小さく声が聞こえてくるからな。それでも

「第一波は殲滅…か。ふぅ…」

 なんだかんだ今のは危なかった。…主に才蔵が。

「ちょっ…均兄ぃ?なんなの今の動き?まったく見えなかったんだけど?」

「お前…本当に、均次か?」

 あの造屋兄妹が餓鬼より俺を畏れている。親しい者にこんな視線を向けられるのは正直ツラいが、今は気落ちしてる暇はない。

「…次が来るぞ」

 まだ遠くにいる個体も含め、多くの餓鬼が俺達に気付き、一斉に近付いてくるのが気配で分かった。

 …異常な反応だ。

 こうなったのはきっと、チュートリアルダンジョンで試練を受けてない者…つまりは才蔵に反応したからだろう。気の毒だが、そういうシステムなんだからしょうがない。

 前も述べたが、モンスターはステータスを持たない者を優先して狙う。


 かと言って安易に迎え討つなんて無謀は出来ない。

 屋根を失くしたこの車では才蔵を守りきれないからだ。

 さっきも言った通り、餓鬼は弱いが群れてくるからな。その旺盛な食欲に任せて来るので連携など取ってこないが…

 数の暴力は、やっぱり怖い。

 街中でモンスターや暴徒に襲われた時も多勢に無勢だったが、あれは乱戦の中をただ突っ切るだけで良かった。だから何とかなっていた。

 だが今回は違う。敵の全てが才蔵を標的にしている。だから、

「なに呆けた顔してる!次がくるって言ってるだろ!コイツらは最後の一匹になっても怯まない!飛ばす頭のネジなんて元からねぇんだ!」

 ここに連れてきた俺が言っていい事か分からないが、今は叱咤が必要だった。この緊急事態を零コンマ一秒でも速く伝えなければならないからだ。

「才子は運転を頼む!このまま集落に入ってくれ!」

 引き返す事は出来ない。あの狭い道で挟み撃たれたらそれこそ絶望的だ。

「え、均兄ぃはどうするの?」

「俺はこのまま並走しながら遊撃に回る!方向や速度を指示するから合わせてくれ」

「ええ?そんな…大丈夫なの均兄ぃ?」

 心配してくれるのか。こんな窮地に導いた俺を。それは有難いが、

「時間がない。ここは言うことを聞いてくれ!」

 このパーティーには、魔法を使える者がいない。そして現段階では、魔法以外に遠距離攻撃の手段はない。

 という事は?
 まともな陣形を取れない。
 なのに、守る対象がいる。

 こんな不利な状況でどんなに守りを固めても無駄。必ず穴が生まれる。穴があれば必ず突かれる。

 留まる事は出来ない。留まれば囲まれる。そうなると俺や大家さんや才子はともかく、才蔵が確実に死ぬ。

「大家さんは乗車したまま護衛を。…二人を頼みます」

「…わかった均次くん。 才子さん行って!」

 さすが大家さん。俺の意図を瞬時に理解して即座、戦闘態勢に入ってくれた。

「ああもう分かったわっ!」

 その気勢に押された才子がアクセルを踏む。いい反応だ。コイツも察しはいいからな。

「ねえ!スピードはこれくらい!?ついてこれてる!?」

「もっと速くていい!じゃないとほら、追い付かれるぞ!」

 こうして走らせた車に俺が伴走してるのは、大群に囲まれないよう、こうするしかなかったからだ。

 …逃走だけではダメだ。

 必ず行き詰まる。

 四方八方から追い込まれ。

 停車したならその時点で終わり。

 あとは数に飲まれるだけ。

 かといって逃げながらの迎撃も難しい。

 走行中の車上では動きが制限されてしまうからだ。それは魔力覚醒者であっても変わらない。

 敵を満足に打倒出来ないという事は、撃破数が稼げないという事。

 そうなると追いかけてくる餓鬼が雪だるま式に増えてしまう。余計に追い込まれる事になる。

 ならば車に接近される前に撃破し、間引いてしまえばいいのだが、それは遠距離攻撃あっての話。

 ではどうするか。

 車と並走しながら戦えるヤツが遊撃手となればいい。

 そしてそれが出来るのは今のところ、『速』魔力が神ランクで加速系パッシブスキル【韋駄天】を持つ俺しかいない。

 しかしそれだと、今度は俺が集中攻撃をくらってしまう。通常なら無謀な作戦と言えるだろう。

 でもそれは、

「…よし、上手くいった」


 『通常なら』って話だ。今はその通常に当てはまらない。だって餓鬼どもは…ほら、俺に見向きもしないじゃないか。

 本能でしか動けないコイツらは、システムの強制力には抗えない。だから、

「いいぞ!その速度を保ってくれっ!」
「もう!簡単に言ってっ!こっちはぶっつけ本番なんだからねっ!」

 こうして声を張り上げても大丈夫。車から距離さえ取れば攻撃されない。何故なら、今のコイツらは才蔵に夢中だからな。俺の事なんてどうでもいいって感じだ。


「…こうなったら簡単だっ」


 車の後を追って数を増やしていく餓鬼達を、さらに後方から追いかけそしてっ、追い付いた先からっ、こうして!


 「おらっ!」

 バキャ「ぎゃっ!」ゴキ「えげっ!」「べあっ!」ドボ「ごっ!」ベシャ「ちゅあっ!?」ドチュ「べじっ!」


 無防備な餓鬼どもを順次、粉砕してやればいいだけ。

 才子に借りたこの『釘バット』でな。

 ただ…、追いかけている側である以上、自慢の『速』魔力による加速を活かした物理エネルギーは上乗せ出来ない。
 それにバットという武器は走行しながら振るようには出来てない。非常に力を乗せにくい。


 それでも一撃で粉砕出来るのは何故か。


 それは、釘バットが『複数の魔攻スキルを重複して発動出来る武器』だからだ。



 前世、こういった武器の事を『複合武器』と呼んでいた。



 バットが発動出来る魔攻スキルは、

【打撃魔攻…打撃による攻撃行動の際、攻撃力が上がる。】

 …とこれだけなのだが、それが釘バットとなれば、

【刺突魔攻…刺突による攻撃行動の際、攻撃力が上がる。】

 このスキルまで重複して発動出来る。

 こうして二つの魔攻スキルを同時発動出来るのは、釘バットが打撃と刺突の両方を同時にこなせる形状だからだ。
 才子の【打撃魔攻】と【刺突魔攻】のスキルレベルが同時に上がっていたのもそのためだな。


 そして俺が釘バットを使えば、【衝撃魔攻LV2】まで重複出来る。

 何故俺にそんな事が出来るかと言うと…ここでウンチク。


 通常だと、武器を使う近接戦闘系のジョブに就いても【斬撃魔攻】と【刺突魔攻】と【打撃魔攻】という三つの『魔攻スキル』しか覚えられない。

 【衝撃魔攻】を覚えるには、『拳術士』など、体術を基本とするジョブに就く必要があるからだ。

 その代わりそういったジョブは【斬撃魔攻】と【刺突魔攻】を覚えられないという縛りがある。

 それでも【衝撃魔攻】は【打撃魔攻】と重複する事が出来たので、武器を装備出来なくても最終攻撃力は拳術士の方が高かった。

 だから前世、クソゲー世界となって初期の頃の拳術士と言えば、かなり人気のジョブだった。

 しかし、この釘バットのような『複合武器』が発見されてからは『拳術士は死にジョブ』と言われるようになっていった。

 そんな歴史を前世で見た訳だが、俺の場合、このようなジョブ選択のジレンマに悩む必要が全くない。


 何故なら『武芸者』の称号を持っているからな。この称号効果で、上記四スキルの全てを取得済みなのは知っての通り。


 この称号を獲得した時は『基本スキルを取得出来ただけか…』とガッカリしていたが、今になって思えばジョブに就けない俺にとってこれは、価千金の逆転称号となっている。

 いや、そんなペナルティがなかったとしても『ジョブチェンジの面倒を省いて四つの魔攻スキルを初動段階で網羅出来る』んだから、やはりの優良称号と言っていい。


(特に【衝撃魔攻】をこの段階で取得出来たのはな、すげー有難い)


 だって、【衝撃魔攻】と重複出来るスキルは、【打撃魔攻】だけじゃないからな。

 実は他の魔攻スキル、【斬撃魔攻】や【刺突魔攻】とも重複出来る仕様となっている。

(前世でこの事実が判明した時はまた『拳術士系は必須ジョブ』とか騒がれてたっけ)

 現金な話だが、みんな生き残るのに必死だったからしょうがない。

 それはともかく、釘バットを使う今の俺の攻撃力は──


【打撃魔攻LV2…打撃による攻撃行動の際、攻撃力が上がる。現在の増加率は1.1倍】

【刺突魔攻LV3…刺突による攻撃行動の際、攻撃力が上がる。現在の増加率は1.15倍】

【衝撃魔攻LV2…衝撃を内部に伝える事で攻撃力を上げる。現在の増加率は1.1倍】


 ──と、以上三魔攻スキルを重複していて、

 1.1×1.15×1.1=1.3915…

 約1.4倍まで上がっている。

 だからこうして無双出来ている訳なんだけど…うん、少々派手にやり過ぎた。

 同胞達が大量に死んでいく事態に反応した餓鬼達が、遂に俺を認識してしまった。そして一斉に襲いかかって──くるなら、こうしてやるまで。

「才子!速度を落としてくれ!」

「ええ?…っと、こう?」

 言葉は悪いが、釣り餌である才蔵を乗せた車が減速すれば?

「ぎゃひ?」
「ひぎぃ…っ?」
「ぎゃっこ…ッ!」

 やっばり簡単に釣れた。元々希薄だった正気をシステムの強制力で完全に失ってしまった餓鬼達は、車にヘイトを移さざるを得ない。

 そんな事をすれば、また後ろから叩き潰される事は分かってるだろうに。それでもどうする事が出来ないでいる。

「悲しいサガってやつか…」

 少し同情してしまいそうになるが、こうしてパターン化したなら、あとは容赦無用で繰り返すだけ。


 …とはいかないのが戦闘というものだ。


 車を後ろから追いかける餓鬼達を全滅させる前に、今度は前からも群れがやって来た。

 進路を塞がれるのは…さすがにマズい。

 前方の餓鬼どもを先に倒す必要に迫られた俺は──脚に鞭打ち、車を追い越し、今度こそ『速』魔力を活かした全開物理エネルギーを上乗せしてッ!


「どぅるぁぁあああああッ!」と、気合いの発声も巻き巻きにっ!


 ドッ!「あげ」パア「べし」アア「くじゃ」ァァ「げゆ」ァア「へし」アア「べし」アア「ぎぁ」アア「げん」アァ「べぎゃ」ァァアンッ!!
 
 特攻!しながらカウンター!纏めて吹き飛ばしてやった──ところへっ!

「きゃーどいてどいて均兄ぃいいい!」

「うわっとおお!」


 あっぶなー…ぃゃこうなるのも当然か。走行中の車の前に躍り出た訳だから。

 うん、以後気をつけよう。





=========ステータス=========


名前 平均次(たいらきんじ)

MP 7660/7660

《基礎魔力》

攻(M)60
防(F)15
知(S)45
精(G)10
速(神)70
技(神)70
運   10

《スキル》

【MPシールドLV7】【MP変換LVー】【暗算LV2】【機械操作LV3】【語学力LV2】【韋駄天LV2】【大解析LV2】【魔力分身LV3】【斬撃魔効LV3】【刺突魔効LV3】【打撃魔効LV2】【衝撃魔効LV2】

《称号》

『魔神の器』『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』『強敵』『破壊神』

《装備》

『釘バット』new!

《重要アイテム》

『ムカデの脚』

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しおり