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215 ウテナとルナ/マナ焼け

 「よかった……」

 意識が戻ったルナを見て、ウテナはとりあえず安堵した。

 「ごめんね、心配かけて」
 「なに言ってんのよ、ルナ」

 ウテナは笑顔で言った。

 「あたしが意識不明になったら、アンタもあたしとおんなじこと、してるでしょ?」
 「うん」
 「ちょっと、痩せた?」
 「えへへ、ちょっとね」
 「あらっ、やっぱり。羨ましいわ」

 ウテナとルナ、お互い、笑い合う。

 「痩せたってどころじゃ……」
 「ちょっと、よろしいでしょうか?」

 襟なしの、肩から膝下までの丈の長い、灰色無地の衣をまとった若い男性の医者が、ルナの妹がなにか言いかけたのに被せるかたちで、口を開いた。

 「今回の原因ですが……」

 医者は、穏やかな中にも、なにやら重大なことを言うような雰囲気をしていた。

 「言うまでもなく、マナを取り込もうとしたことによって身体が拒否反応を起こしたことによる、体内のマナ焼けに他なりません」
 「マナ焼け……」
 ウテナがつぶやいた。

 「はい。ルナさまの体内の中は、いま、ボロボロです」
 「えっ」
 「マナを体内に取り込めてしまえば、血液にマナは溶け込み、やがて順応して身体全体へと巡るのですが……」
 「……」

 皆、黙って、医者の話を聞いていた。ルナ自身も、少しうつむいて、医者の言葉を受け入れているようであった。

 「マナを取り込めない場合は、身体が激しい拒否反応を起こしてしまいます。マナを取り込めない者にとって、体内にマナを取り込むというのは、毒を直接身体の中に入れるに等しい」
 「毒って……」

 ウテナは医者の言葉を聞き、唖然とした。

 「お姉ちゃん、もう、マナを取り込むのは、よそうよ!」
 「そうだ、ルナの身体のほうが、大事だよ」
 「お姉ちゃん、これ以上やったら、死んじゃうよ!」

 ルナの妹や兄、兄弟達が口々にルナに言う。

 「大丈夫よ、みんな」

 それに対してルナはそれだけ言うと、近くにいる妹の頭を撫でた。

 「はい。ルナさま、これ以上は、本当に危険だと、言わざるを得ないでしょう」
 医者も言った。

 ……たぶん、ルナは、諦めない。

 ウテナも、気持ちは、兄妹達と同じだった。もう、ルナは、マナを取り込むべきではない。

 だが、2度目の交易を経験したことで、この国内の能力者とは別の、水を自在に操る彼と出会い、変わっていた。

 ルナの青い、美しい瞳に宿っている決意を知っているウテナは、兄妹と一緒になって、ルナを止めることはできなかった。

 「……」

 ただ黙って、ウテナはその光景を見守っていた。

 ……あっ。

 ルナは長袖の、膝下まである丈の長い、水色の寝食用の衣を着用していたが、妹を撫でたことで、ルナの手首から先の腕が見えた。

 その腕は、ダガーを握る柄《つか》の部分よりも、細かった。

 「フィオナさんは?」

 ルナが、ウテナのほうに顔を向けていた。

 「へっ?あっ、えっとね、会議があるって」
 「そう。フィオナさんにも、謝らなくちゃ……」
 「あたしが言っておくから、大丈夫。いまはゆっくり休んで」
 「ありがとう」
 「そうだ、フィオナさんがね……」

 少し世間話をした後、面会時間が終わり、ウテナは、ルナの家を去った。

 フィオナと合流するため、会議をしている集会所へと歩を進める。

 「……」

 ルナの、細くなりすぎてしまった腕が、ウテナの目に焼き付いていた。

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