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200 サーシャの絵画

 「ちょ、ちょっと!お2人とも!サーシャさまから離れなさい!」

 慌てた様子で、召し使い達がミトとラクトへ走りよりながら注意した。2人のスピードが一瞬過ぎて、反応が遅れたようだ。

 「あぁ、はいはい」

 ミトもラクトも、サーシャの腕を離した。

 ――パキッ、パキキッ。

 「うわぁ……」
 「あぁ、もったいねえ……」

 ミトとラクトが呆然として、サーシャがハンマーを振り下ろすのを眺めていた。

 臼の中、青く輝く宝石ラピスが、どんどん砕かれる。

 次にサーシャはハンマーを置き、すり棒を持った。

 ――ゴリゴリゴリゴリ……。

 すり棒によって、みるみる粉々になってゆく。
 
 「すげえな。なんの躊躇もねえ……」

 ケントが、呆れを通り越して、もはや関心した様子で言った。

 サーシャは途中から、ラピスをすり潰す作業を召し使いに任せ、自らは絵画の前にあるイスに座った。

 「……」

 無言で、手を伸ばす。毛先が青く光っている筆を持った。

 と、召し使いの一人が、ケント達の前に出てきた。

 「皆さま、取り引きは終了となります。お帰り下さい」
 「あ、あの、ちょっとだけ、いいですか?」

 マナトは小さく手をあげた。

 「まだ、なにか?」

 召し使い達が、疑いの目でマナトを見ている。

 ……ラピスを利用した塗料が、あの絵画に使われている。
 そう思うと、マナトはサーシャの描いている絵画が気になった。

 「ちょっと、近くで、サーシャさんの絵を見たいんですけど……」
 「サーシャさまは作業に戻られました。もう……」

 ――ぎゅっ。

 召し使いが話しているうちに、ニナはマナトの手を握った。

 「それ~!」

 ニナがマナトの手を引いて、召し使いの横を通り抜けた。

 「ちょっと、ニナ!」
 「えへへ!ボクが一緒だったらいいでしょ!」

 ニナが、マナトへ振り向いて、ニコっと笑った。

 ありがとう、の思いを込めて、マナトはニナの手を強く握り返した。

 サーシャの後ろに、ニナとマナトは立った。

 「おぉ……」

 その絵画は、上3分の1が薄い水色風の色、下は3分の1が濃い青、というか、ラピスの色ほぼそのままだ。

 また、どこかうねりを持っているような、波打つように見えた。

 下のほうは、まだ描かれていない。そこはまだ、途中のようだ。

 そして、ラピスの結晶のせいか、特に中間の濃い青色からは、所々、キラキラ輝きを放っていた。

 「……なに?」

 気がつくと、サーシャが振り向き、琥珀色の目でマナトを睨み付けていた。

 「あぁ、すみません。ラピスを使った絵が、どのようなものか、気になってしまって」
 「……まだ途中なの」

 そう言うと、サーシャは持っていた筆を、床の上の、青く輝く液体の入ったお椀につけた。

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