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37.破滅の鎧

 プロウォカトルの長官、落人 魂呼さんは、その前に立ち、破滅の鎧を見続けていた。

 ピープパポパペー

 ピープ音だ。
 機械が異常などを知らせるとき、ならす電子音。
 その音が、魂呼さんから鳴った!
 綺麗に首もとでカールした白いショートボブ。
 その下の白い肌。
 ガラス玉のように熱を感じさせない青い瞳で、破滅の鎧をみすえて。
 白い陶器のツヤと金細工を持つ義手で腕組みしたまま!

 ピーポポポ

 その彼女が!
 古いパソコンみたいな電子音をだすとは?!
「はっ!
 魂呼さん、壊れちゃったの?!」
 安菜が、私と同じイヤな想像を、おびえて叫んだ。
 魂呼さんはサイボーグなんだよ。
 しかも達美さんとおなじ、脳をいじくるだけいじくり、故あって異能を得たタイプ。
 でも、ま、まさか!
「今は魂呼がエニシング・キュア・キャプチャーを維持してるんだよ」
 観測機器の影に、男性がいた。
 真脇 応隆さん。今は作業着に工具をたくさん付けたベルトをしている。
 メガネをかけてやせている、ポルタ社の社長。
 私は叫ぶ。
「達美さんの技を肩代わりしただけで、そんなに不都合が起こるんですか?!」
 だけどね。
「達美によると、使うエネルギーがけた違いなんだそうだ。
 今後は自分の技はメガ・エニシング・キュア・キャプチャーと呼ぶらしい」
 そして、応隆さんは私を見て。
「佐竹さん、昴からエニシング・キュア・キャプチャーをもらったんでしょ。
 君も使えば、だいぶ負担をへらせる」
 ああ、そうでしたか。
 私は急いで黒いペンダントを引きだし、破滅の鎧に向けた。
 そういえば、応隆さんの雰囲気が柔らかくなったな。
 前は、四六時中おびえた感じがしたのに。
 守るものがあると、男は強くなる。ってやつかな。
 ボルケーナ先輩がいるから。
 それは、すてきだな。
 私は以前の達美さんと同じように、叫ぶ。
「エニシング・キュア・キャプチャー!」
 黒い宝石が、魔法炎の姿をとりもどす。
 揺らめく黒い炎は広がりながら飛び、メガ・エニシング・キュア・キャプチャーに結びついた。

 魂呼さんの腕ぐみがとけて、私たちを向いた。
「佐竹、トロワグロ、よく来てくれた。 
 では、仕事をはじめよう」
 鎧の前に置かれた空の机とイス。
 安菜は「はい」と言って、ためらうことなく、その席に着いた。
 ボルケーナ先輩がさっていく。
 名残惜しそうに。
「はじめまして。破滅の鎧さん。
 安菜 デ トラムクール トロワグロです」
 安菜はやわらかく、鎧に声をかけた。
 すごいや。
 この肝の太さは私、どうしても欲しいよ。
 これからしばらく、私は横にひかえるだけ。
「あなたは、この世界を長く導いてきた、異能を持たない貴族とのみ交渉する、と聴きました。
 ですが、私は名乗ることができるだけのただの学生です。
 たまたま、貴方のような存在を研究していただけの、今回一時的にプロウォカトルに認められた広報担当です。
 それでも、この機会を十分生かしたいと思います」
『いえ、こちらは感謝しています。
 魔術学園に近い人で、そういう方がいるとは、思わなかった。
 よく来てくださいました』
(どういう人ならいると思ったんだろう?)
 その疑問が解かれるかどうかはともかく、安菜はちゃんとやっているように、見える。
 ちゃんとやれるよう、祈った。
 どうやればいいか、わからないけど。
「まず最初は、あなたのことを知りたいです。
 あなたがどこから来たか。なぜ来たか。
 その全身の突起のことも。
 研究員の皆さんからも、わかっていることを聴きたいと思います」
 そう、みんなを見回して言った。
「まずは、そこから始めましょう」
 トートバッグから、スマホやメモ用紙などを取りだす。
『安菜殿下。感謝します。ではまず――』
「あ、ちょっと待って!」
 破滅の鎧さんの言葉は、安菜自身によって止めれた。
「もし、失礼なことだったらごめんなさい。
 あなたの呼び名についてです。
 見たところ、あなたは大きく手をくわえられているようです。
 破滅の鎧というのは、その後につけられた名前ではないですか?
 以前の名前がいいと思うなら、それでお呼びしましょうか?」
 安菜すごい!
 その発想はなかった!
 だけど、破滅の鎧さんの答えはその驚きを超えたものだったの。
『……安奈殿下、お心遣いに感謝するべきでしょう。
 ですが、私には意味がありません。
 私は、以前作られた3つの鎧を統合したものです。
 その統合機にMCOを込めた、こん棒を液体化してうめこみました』
 MCO。こん棒。
 そうか。あの茶色い角は、どうやったかはわからないけど、こん棒、木の棒を液体化したものなんだ!
「それは、どういう事でしょぅか?」
『以前の名で呼ぼうとすると、とても長くなってしまいます』
「そうですが。
 では今後とも、破滅の鎧さんとお呼びしましょうか」
『はい。それがふさわしいのです』
 ふさわしい、か。
 気にいってる、とか、大切な名前、じゃなくて?
 だけど、そのことは私の頭からすぐに吹き飛んだ。
 ざわつき始めた周りの研究者たちもそうだろう。
「……おい、俺の頭がおかしくなってないか確かめたいんですが」
「……私もそうです。こん棒とMCOって、言いましたよね」

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