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35.来てほしくなかった

「それで、どうなったの?!」
 3日後、土曜日休みの日、私は安菜に問い詰められていた。
 その表情は真剣そのもの。
 こういう友達は、ありがたい。
 いつもならそう思う。
「落下物は、無事回収できたよ。
 その後は、プロウォカトルやポルタ社の人が来て、大変だった」
 けど、今感じるのは、悪いことしてる、と言う気持ち。
「落下物?
 意思があるんじゃないの?」
「いいえ、らしいよ。
 自分の事を破滅の鎧って言ってたから」
 足が重い。
 聴かれるかぎりは、答えようと思う。
 こんなの、せめてもの償いにもならない。
 でも、それしかできないから。
「ハメツノヨロイ、ねえ」
 恐ろしい言葉の繋がりのはずなのに、こいつは。
 のんきな顔で何を想像してるのか。

 長いトンネルを、2人だけで歩く。
 行く先は、我らが特務機関プロウォカトルの研究所。
 今、安菜と話していることは結構高い機密なんだよ。
 学校では話せない。
 このおしゃべりがよく、ここまでガマンしてくれたと思うよ。
 今の私は、我が家流和洋折衷ロマンスタイル。
 振り袖は錆納戸(さびなんど)、くすんだ緑。
 袴は、さらに青を足した深い色。
 襟や袖口からは、白いレースがのぞく。
 首もとは黒い棒タイを蝶で結んだ。
 帯は、黒地に白いコスモスの刺繍。 
 ぼうしは、この間と同じ麦わら帽子。
 黒いリボンを巻いて白バラで飾った。
 帯留めは白黒白。
 白い日傘と黒のポシェット。

 安菜は、イエローのチュニックに、白のサテンパンツ。
 涼しげながら露出は少ないね。
 細身のシルエットだよ。
 シルバーのウォーキングシューズ。
 靴ひもなのが実用的。
 ベージュのトートバッグを手に。
 アクセサリーは、白のブレスレットウォッチ。
 金の細いロングネックレス。
 ペンダントは、ひねりの入った棒状。
 シンプルだけど、チョコレート色の肌と、腰までのびた波うつ金髪に合う色合い。
 エレガントにいきる、現代の貴族だと思うよ。

 安菜は貴族なんだ。
 名のれるだけだけどね。
 そもそも、フランスには公式に貴族はいない。
 それでも、その血統を証明してくれる協会だかなんだかがあって、名乗ることはできる。
 そういえば、安菜の肌が黒いのは、おばあちゃんがアフリカのアルジェリアから来たからだ。と言ってた。
 旧フランス領土だったところだよ。
 でも、そんなことが安菜をここにいさせる理由にはならない。
 ここには、次に作るシャイニー☆シャゥツの動画が、安菜の「異能力者の犯罪ドキュメンタリー」だから。
 そして私には、ただの人間を巻き込む、裁定人の資格がある。
 イマイマシイことにね。

 暗号世界って私たちの世界とはちがう政治体系で動いてる。
 だからかな。
 こっちの世界から偉い人が行っても、話を聞いてくれないことがある。
 そんな資格はない、ってね。
 そこで、どういう行動を取れば良いか、誰に仕事を引き継いでもらえば良いか考える人が必要になる。
 それが裁定人。

「破滅の鎧を捕らえるときに使ったのが、これと同じものなの」
 私は、襟から金の鎖を引きだす。
 ペンダントには、金の輪にはめられた紫の結晶が。
「エニシング・キュア・キャプチャー。
 昴さんからもらったの」
 ポルタ社の副社長さん。
 全自動こん棒繋ぎマシンの前での約束を、果たしてくれた。
 安菜がのぞき込んできた。
「それさえあれば、なんでも捕まえられるの?」
「捕まえるだけじゃなくて、完全に隔離することもできる。
 検査だってできるし、中と話しすることもできる。
 もしもの時は、これで守るんだ」
 今、破滅の鎧が暴れたら、ウイークエンダーはいない。
「それでも、なるべく使いたくない。
 あんまり、攻め立てるようなことを言ったらダメだよ。
 おびえてるみたいだから」
 対する安菜は。
「まかせて!
 本場のノーブレス・オブリュージユをみせてやるわ!」
 私は本場のオムレットが食べたい。
 そう聞くと安菜はムスッとした。
 ・・・・・・悪かったよ。
 でも、そのムスッは私の気分転換にはなった。

 さて、インターホンに呼びかけよう。
「破滅の鎧さん、佐竹です」
 ドアを開く。
 カードキーで。
 ロケット砲でも破れない分厚いヤツを、電動で。
「安奈 デ トラムクール トロワグロを紹介させていただきます」

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