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鯖折りマン登場

ある晩、くたびれたサラリーマン黄泉仙太郎は、同僚たちとの二次会からの帰り道、酔っぱらって道に迷いました。そんな彼の前に現れたのは、一風変わった店「ダイヤトーン鯖折りスタジオ」でした。この店の看板には、「鯖を折る」という不思議な文言が書かれていました。好奇心に駆られた黄泉は店内へと足を踏み入れます。

店内は幻想的な雰囲気に満ちていました。壁には折れた鯖の絵が掛けられ、薄暗い照明がその神秘的な美しさを際立たせていました。カウンターの奥で、鯖折りマンが黄泉を待っていました。黄泉仙太郎の目の前に現れた鯖折りマンは、一見するとサーカスから抜け出してきたかのような華やかな風貌でした。その顔は、クラウン特有の白塗りに赤と緑の大胆なメイクが施され、大きな口元には常に妖しげな微笑を浮かべていました。頭には高さを誇る赤と白のストライプのシルクハットを乗せ、身には同じく紅白のストライプの背広を着こなし、蝶ネクタイがその奇抜な装いを引き立てていました。彼が持つマイクのようなサバは、彼の個性的なショーの核となるアイテムであるかのように、観客を惹きつける力を持っていました。

「何なんだよ?ここ」と黄泉は困惑を隠せずに口にしましたが、その声はスタジオの壁に掛けられた様々な鯖の絵や、不思議な装置に囲まれた空間の中でこだました。ダイヤトーン鯖折りスタジオは、複雑な色と形の装飾で彩られ、まるで別世界に足を踏み入れたような雰囲気を醸し出していました。

スタジオの隅々には、幾つもの鯖が異なる形で展示されており、その中には鯖折りマンが鯖を折る様子を捉えた写真や、折られた鯖から生まれた奇妙な芸術作品もありました。店内には幻想的な音楽が流れ、黄泉が酔っ払って迷い込んだという事実を忘れさせるかのような魅力を放っていました。

この店は、ただの鯖を扱う場所ではなく、鯖を通じて新たな価値や体験を提供する鯖折りマンの哲学が具現化された空間だったのです。黄泉
「鯖読むサバ読む、お話、サバ読む。ポッキリ千円!」鯖折りマンは黄泉に向かって微笑みながら言いました。黄泉はその言葉に惹かれ、鯖を折ってもらうことを決心しました。

鯖折りマンは黄泉に鯖を渡し、神秘的な呪文のような言葉を唱えながら鯖を折り始めました。すると、折り目からは煙が立ち上り、黄泉はその煙に包まれるような感覚を覚えました。
煙が晴れると、黄泉は自分がまるで別世界に迷い込んだかのような場所に立っていました。広大な草原、美しい花々、遠くに聳え立つ山々、青々とした森の中を流れる小川。彼はその美しい風景に心奪われました。

この場所は黄泉の妄想が具現化した世界で、彼は様々な冒険を繰り広げることになります。彼は勇敢に敵と戦い、困難を乗り越え、この世界の住人と交流し、彼らの話を聞き、助けることで心を豊かにしていきました。

しかし、この美しい世界は黄泉の妄想の中にしか存在しないため、彼がこの世界を離れると、すべてが消えてしまいます。黄泉は現実と妄想の狭間で葛藤し、最終的には現実の世界を選ぶことにしました。
「千円! 千円ったら千円」
煙が晴れると鯖折りマンが嫌らしい目つきで請求してきました。
「何なんだよ。お前」
黄泉は財布から皺だらけの千円札を取り出しました。
「まいどっ!」
彼はひったくるように受け取りました。
「うーわキモッ。二度と来ねえよ」
口ではそういいつつもどこか未練が残ります。現実離れしたダイヤトーンの照明が不思議な魅力をかきたてます。
「鯖折る? もっと、鯖折る?」
心境を察したのか鯖折りマンが追加のオーダーを煽り立てます。
黄泉は勢いに乗せられてデビットカードを財布から抜きました。




 
挿絵

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