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185 鉱山の村にて/ラピスの価値

 「こういった、希少価値が高いものってのは、どうしても、狙われる運命にあるんだよなぁ」

 美しく青く光るラピスを眺めながらケントが言うと、交易担当は苦笑した。

 「そればっかりは、どうしようもないねぇ……。アクス王国では、このラピスの交易の際、ものすごい人数の護衛と、さらにわざわざ黒甲冑の王宮護衛までもを伴って、大商隊でこの村にやって来るんだよね」
 「なるほど。ちなみに、今回の運搬するラピス全部で、どれぐらいの価値があるんですか?」

 ケントは交易担当に聞いた。

 「そうだなぁ、ちょっと、いい例えが思い浮かばないが……ちょっとした小国一つは買えてしまえてしまうんじゃないか?」

 ……小国一つ……だと!?

 高価なものを運ぶというだけでも、なんかそわそわしてしまうのに、そんなこと言われたらやたらとプレッシャーを感じてしまうと、マナトは思った。

 隣で聞いているミトとラクトも、交易担当の言葉を聞いて、顔が引きつっている。

 「そんな高価な代物を……?こんなこと言うのも野暮なんですが、岩石の村は見合った交易品を出せるのだろうか?」
 「それが、出せるんだよ。詳しいことは言えないんだが、あそこの村は、ちょっと特別なんだ」
 「そうですか。……そんじゃ」

 交易担当と話を終えると、ケントは、ミト、ラクト、マナトの3人へ向けて言った。

 「岩石の村は、ここから近い。少し休んだら、すぐに向かうことにする」
 「……」

     ※     ※     ※

 「よし。……いや、もう一回」

 ラクダに取り付けた、ラピスの入った木箱の固定具合を、マナトは何度も確認していた。

 「うん。これで……いや、もう一度」

 何度も何度も確認を行う。

 「ミト、これで、い、いいのか?」
 「たぶん。い、いや、取り外して、もう一回、取り付け直してもいいんじゃないかな?」

 さっき取り付けたにも関わらず、不安になったミトとラクトが、一度ラクダから取り外して、また取り付け直していた。

 「……んっ?」

 3人のぎこちない様子に気づいた村人の一人が、ケントのもとにやって来て、小さな声でささやいた。

 「おい、ケント。大丈夫なのか?見た感じ、宝石を運ぶの、かなりビビってるくさいぞ?」
 「フフっ。まあ、アイツらは、こういった経験は、今までないからな」
 「えっ?マジで大丈夫なのか?マジで襲ってくるぞ、盗賊」

 心配そうに村人が言うと、ケントがニヤニヤして言った。

 「余裕だぜ」
 「マジで?」
 「アイツらもルーキーのほうだが、着実に成長している。デザートランスコーピオンにも打ち勝っているからな」
 「あっ!前にこの村に来たときの、帰りか!マジで戦ってたのか……!」
 「それに、ジン=グールとも、やり合ってる」
 「えっ!?」
 「まあ、油断はしないようにするさ。……おっ」

 ミト、ラクト、マナトがケントへと手を振っている。

 行く準備が整ったようだ。

 「行くわ。そんじゃあな」

 唖然とする村人に別れの挨拶すると、ケントは3人とラクダ達のもとへと歩いていった。

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