バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

167 ラハムの民/湖の村の若村長①

 その言葉を聞き、マナトだけでなく、ミト、ラクト、リートもジャンのほうを向いた。

 「我々は、ラハムの民の者です」
 「そうだったのか。ラハム……クルールの隣の地方だな」
 「ええ」
 「……聞きにくいことを聞くが」
 「構いません」
 「亡命、ということかな?」

 ジェラードの問いに、少しジャンは間を置いた。

 そして、目を細めながら、懐かしむように言った。

 「……もう、5年前になりますでしょうか。……我々の村は、ジンに襲われました」
 「!」

 ジャンは、一緒に楽しそうに食事をする、多くの村人逹を見つめた。だが再び何かに気づいた様子で、窓の外を見た。

 「よくある話です。クルール地方は平和と聞き、それで、ここまで村人みんなで逃げてきたのです」
 「そうだったのか。……いや、すまない。一応、素性は聞いておきたかったんだ」

 ジェラードの言葉に、ジャンは笑顔で応えた。

 「いえ、こちらこそ。それでも、ここに来て、よかったと思っているのです。では、恐縮ですが、私は少し用事ができたようなので、少し外します……」

 ジャンが立ち上がり、一礼すると下がり、集会所を出ていった。

 「ちょっと、トイレっす……」
 リートが立ち上がった。

 「やれやれ……」

 リートとすれ違いに、年配の村人が、ため息をしつつ、ジェラード逹の前に出てきた。

 「どうもわしらの村長は、自らの功績というものを、自らの口で語りとうないんですわ」
 「じいさん、どういうことだ?」
 「ラハムの地で、為す術なく村が崩壊してゆくのを、一人食い止め、村がダメになってしまっても心折れることなく、常に勇気を持って皆を励まし、そして、当時の村長が道中ばにして病に倒れ、命を落としても、ジャンだけは……!」

 ジェラード逹に話す年配の村人の声は、だんだん熱がこもってきた。

     ※     ※     ※

 湖の村から少し離れた、草原の上。

 「まったく……獰猛種の生き物らが少なくなってきたと思ったら……クルール地方といえども、さすがに盗賊はいるのですね」

 二本の長い両刃剣を持ったジャンの、綺麗な立ち姿が、そこにあった。

 「いくらやってもムダですよ、夜襲に来た盗賊の皆さん」

 ジャンの目の前には、大人数の盗賊団。

 すでに、数人は負傷し、倒れている。

 「なんだコイツ……!」
 「クソッ!たった一人じゃねえか、こっちは30人以上いるんだぞ!?」

 盗賊の数人が、ジャンに飛びかかった。

 ――ザクザク!!

 「がはっ!!」
 「ぐ……ぐはぁ!!」

 ジャンのそれぞれの長剣に腹を貫かれた盗賊2人が、口から血を吐いた。

 「湖の村にこれ以上近づくなら、本当に容赦しませんよ。特に今日は、客人を招いているんです」

 殺意に満ちたジャンの目が、盗賊一人ひとりをとらえた。

 ジャンが、跳躍した。

しおり