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 それからまた数週間、サミュエルはロナードの動きを探りつつミスティ侯爵の行動を監視していた。
 皇太子を迎えに行ったはずの王妃は未だ戻らず、その理由は無理な旅程で体調を崩したためというものだった。
 国王は想定内だと笑っていたが、シェリーは不思議でならなかった。
 仕事が一段落し、侍従に休憩をとるように指示した後、メイドが置いて行った紅茶のカップをじっと見た。

「アルバートらしくないわ。何があったの? どうしちゃったの?」

 信頼はしていても愛しているという実感は無い。
 しかし夫婦だったのだ。
 他人にはわからない機微というものがある。
 今のアルバートは自分の知っている彼ではないと、本能の部分が警鐘を鳴らしていた。

「なんとしてでも会わなくては」

 そんな言葉を口からだした時、ドアがノックされた。
 入ってきたのはサミュエルとシュラインだ。

「休憩中か?」

「もう十分休みましたわ。どうぞお入りください」

 新しいお茶をメイドに申しつけ、シェリーがソファーを勧めた。
 座るなりシュラインが口を開く。

「夫を迎えにいきませんか? 皇太子妃殿下」

「え?」

 サミュエルが後を引き取る。

「揺さぶってもミスティ侯爵が動かないんだ。養子の方は煩いほどちょろちょろしているのだが、肝心の侯爵が屋敷から全く出てこない。ここまでくると不自然だろう? だから動かなくてはいけないように仕掛けようと思う」

「ああ、帰ってこない夫に業を煮やした嫉妬妻が、押しかけるために引っ張り出すってことですか?」

「さすが! 察しがいいねぇ」

 シュラインが楽しそうな声で揶揄った。

「でもそれって囮なのでしょう? 本命は?」

「本命はロナードだ。鬼のいぬ間に必ず行動を起こすはずだ」

「どこまで掴んでいるのですか?」

 そう言うとシェリーは人払いをした。

「グリーナ国からミスティ侯爵家に何度も使者が来ている。商人の姿で訪れているが、あれは間違いなく騎士だ。そして奴は外で隠れてバローナ王国の奴らと接触している」

「バローナ王国? グリーナ国とは反対側にある国でしたわね? 確か名産は茶葉……」

「ああ、さすが皇太子妃だ。名産品まで把握しているとはね。だけどかの国はそれだけでは無いんだ。彼の元婚約者の国だよ」

 サミュエルが片眉を上げながら親指でシュラインを指した。

「まあ! そうでしたか」

「うん、一度も会ったことが無いからなんとも言えないけれど、確かに婚約者だった王女がいる国だね。今はもう10歳か? いや、11歳にはなったのかな」

 王族とはいえ24歳の成人男性に8歳の幼女を嫁がせるなど犯罪にも等しい行為だ。
 なぜそれがまかり通ったのだろう。
 シェリーは気安さから口に出して聞いてみた。

「ああ、それね。政略結婚だからって言ってしまえばそれまでだけど、それにしても限度があるよね。あれはミスティ侯爵家の養子殿が焦って見繕ってきたってことになっているけれど、実はあちらから持ち掛けられた話だったんだ。当然私は断った。母も同じ意見だったのに、なぜかある日を境に意見を変えた。それからはあれよあれよという間だったね。なぜか父上も反対しなかった」

「不可解ですわね……それであちらの思惑はわかっていますの?」

「正確にはわからないけれど、父上まで口を噤んだんだ。余程の利があったのだろうね。父上に聞いても笑うばかりで教えてはくれなかった」

「国王陛下が? 引っ掛かりますわね」

 暫しの沈黙の後、サミュエルが口を開く。

「そうだ、皇太子妃殿下にお願いがあったんだ。私と夜会に行ってくれないか? 仮面舞踏会だから多少は気が楽だろう? たまには息抜きをしても良かろう?」

 意味深なウィンクをして見せる。
 きっとその夜会で何かを探ろうとしているのだろう。
 そう察したシェリーは頷いた。

「まあ! 夜会など久しぶりですわ。王弟であり近衛騎士隊長のサミュエル様でしたら安心して楽しめそうですわね。お供いたします」

「ああ、それはありがたい。立場的にパートナーを頼みにくくてね。助かるよ」

「いつですの?」

「明日だ」

「また急な……」

 シェリーは断られる想定などしていないサミュエルの顔を見てクスっと笑った。
 その横でシュラインが肩を竦める。

「まあたまには良いんじゃない? 楽しんでおいでよ」

 衣裳の色見などを話し合い、その日は早めに休んだシェリーだった。

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