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 国王が口を開いた。

「私としては成績も性格も同じような二人なら、長兄を優先すべきだと思っていた。しかしシュラインが絶対にアルバートだと言い張ってね。私が折れる格好になったのだが、まさか今になってミスティ侯爵が動き出すとはな」

 ふっと息を吐きサミュエルが続ける。

「国民感情というのは実に難しい。自分たちは自由に恋愛を楽しんでいても、国を統べる者には潔白を望むのだ。特に結婚しているのに他の女性に心を移すなどもっての外だ。国民の半数は女性だ。アルバートはこの国の半数の者たちを敵に回してしまったという事だよ」

 嫌な気持ちになるのは正妃である自分だけでは無いようだとシェリーは思った。

「なるほど、それは致命的ですわ」

「そうだろう? 先ほども言ったが国の安寧が最優先だ。今のアルバートでは国民が付いてきてはくれない」

「ではどうなさるのでしょう?」

 咳払いをしてシュラインがシェリーに向かった。

「単刀直入に聞くね。ブラッド侯爵を筆頭とする中立派はどう動こうとしてる?」

 シェリーは息を吞んだ。
 この国のサミットに座るこの三人に噓は通用しないことを肌で感じる。
 シェリーは覚悟を決めた。

「今からお話しすることで、私を罰すると仰るなら甘んじてお受けいたしましょう。しかし娘のことを思い、行動しようとしている父や母、そして弟のことは何卒……」

 国王が慌ててシェリーに手を伸ばす。

「今からお前が何を言おうとしているのかはわからないが、その内容如何でお前を罰することは無いと我が名を懸けて誓おう。この二人が証人だ」

「ありがたきご配慮、心よりお礼申し上げます」

 シェリーはこの10日間で話し合った内容を全て漏らした。
 イーサンのことも隠さずに話したが、溢れだす涙を抑えることはできなかった。

「なるほど。君たちは完全なる被害者だな」

 サミュエルが独り言のように言った。

「私に被害者意識はもうございません。しかし、イーサンは違います。行かなくても良い戦場に赴くように誘導され、片手と片目、そして記憶までも失い、次期侯爵としての未来まで奪われたのです。そのことを許すつもりは……ございません」

 三人の男たちは黙ったままシェリーが泣き止むのを待った。
 サミュエルが差し出したハンカチを握りしめ、国王に背中を擦られているシェリー。
 やがて目を上げて強い言葉を放った。

「王妃殿下には思うところがございます!」

 国王が大きく頷いた。

「さもあろう。我妻ながらちとやり過ぎだ」

 サミュエルが冗談ぽく言う。

「だから言ったでしょう? 兄上。あなたは女を見る目がないと」

 シュラインが吹き出した。

「そういう意味なら私の母親も同罪だが、そこはアルバートがかたき討ちをしてくれたってところだね? まあ彼の趣旨は違ったけれど」

「ええ、側妃様はもうおられませんものね。北の塔でお過ごしですわね」

 シュラインがしれっと言う。

「いや? 北の塔にいるのはダミーだよ。彼女は終身刑を受けた受刑者だ。自分が側妃の身代わりだということも知らないさ。母は死んだよ。毒杯を賜ったんだ」

 シェリーは息を吞んだ。

「存じませんでした……それはまた……」

「知らなくて当然だ。これを知っているのはここにいる三人だけだもの。たった今四人になったけどね。彼女はいろいろやり過ぎた。ローズを匿う代わりに不利な交易条件を飲まざるを得なかった。そしてシルバー伯爵令息が行った戦争も元はといえば彼女が招いた事だ」

 国王が苦々しい顔で言う。

「私に微量の毒を盛り続け、判断力を低下させていたのも側妃の仕業だ。死罪は当然のことだよ」

 サミュエルがお道化て言う。

「残っている狐は一匹だ。しかしこの狐の周りにいる狸どもも一掃しないと意味は無いさ。そのためにはシェリー、君の力が必要だ」

 国王が声を出した。

「キツネ狩りだ」

 三人は同時に頷いた。

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