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130 マナトの一日①

 ――ニャッ!ニャッ!

 密林の湖のほとりで、コスナが短い手足を存分に動かして、飛び交うチョウチョ達と戯れている。

 ――プカプカプカ……。

 湖には、いくつもの小さな水玉が、空中に漂っていた。

 その下には、マナト。湖の水面上、両手をかざして立っていた。

 「……」

 マナトが、かざしていた両手の親指から小指までの、指と指を合わせた。

 ――チャプチャプチャプ……。

 水玉達は集合し、やがて、丸い大きな水の球体が出来上がった。

 マナトはその出来上がった巨大な水玉の高度を、ゆっくりと下げ始めた。

 やがて、巨大な水玉が静かに、湖に戻る。

 音もなく、ゆらゆらと波が起こった。

 そんな、上下に激しく揺れる水面上にありながら、マナトは足をとられることなく、立ち続けていた。

 「……フゥ。そろそろ、お昼かな」

 つぶやくと、マナトは水面をひと蹴りした。

 ――スィ~。

 水面を、まるで氷面をスケートで滑るような感覚で移動し、ほとりにあがる。

 「コスナ~。村に戻るよ~」

 ――ニャッ。

 マナトとコスナは村へ向かって歩き出した。

 ムハド大商隊が帰還して、一週間ほど。

 朝、密林の湖で、水の修練。

 昼、ミトの家に寄った後、長老宅にて、木片書簡の書き写し作業。

 夕方、中央広場でお買い物。そして、帰宅。

 今日、マナトはそんな一日を過ごす予定だ。

 密林を出て、緑の畑と木造の家が点在する、農作業エリアに差し掛かった。

 「コスナ、ちょっと、今日は寄り道してくね」

 マナトは道を変えた。

 ――ニャッ?

 コスナは一瞬、立ち止まったが、すぐにてくてく、マナトについていった。

 「久しぶりだな、ミトの家……あっ!」

 マナトの視線の先、畑で水をやるミトの姿があった。

 「ミト~!」

 マナトは大声を出して、大きく手を振った。

 「……んっ?あっ!」

 ミトがマナトに気づき、手を振り返すと、畑から出てきた。

 畑仕事の関係か、ミトは汚れてもいい感じの長袖の服に、革の長靴をはいていて、頭はフードを被っていた。

 「マナト、どうしたの?」
 「湖で水の能力の修練してたんだ。その帰りだよ」
 「へぇ!そんなことしてるんだ」
 「へへっ。僕も、ミトとラクトに負けてられないって思ってね」
 「そっか。マナトも、頑張ってるんだね」
 「うん。あと、ミトに渡したいものがあって」

 マナトは懐から、前に市場でジェラードからもらった、マナの源炎石を取り出した。

 「これ……もしかして」

 ミトは何やら気づいた様子で、その赤い光のうごめく石を見つめた。

 「もしかして、ウシュムのマナなんじゃ……」
 「うん。ウシュムのマナの源炎石だって、市場の人が言ってたんだ。これを、ミトに渡そうと思って」

 マナトは言うと、源炎石をミトに手渡した。

 「なんとなくだけど、ウシュム出身のミトが持ってるのが、いいのかなって思って」
 「……」

 ミトは、少しの間、目を細め、マナの源炎石を見つめていた。

 「ありがとう、マナト」
 「とんでもない。僕のほうこそ、ミトには恩返ししてもしきれないほどだと思ってるから」
 「家、あがっていきなよ!朝採れ野菜で、料理作ろうと思ってたから」
 「あっ、この後、長老の家で作業が……」
 「いいからいいから!」

 ミトに背中を押されて、マナトはミトの家に吸い込まれるように入っていった。

 ――ニャッ!ニャッ!

 コスナは、今度は畑のチョウチョ達と戯れ始めた。

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