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第170話 変わり果てたギースの姿

 三度の空砲が鳴らされて、戦場には一段と緊張感が張りつめていた。

 次に来た波を完全に止めることができれば、俺たちの役割は終わりを迎える。

 初めは格好つけすぎたような気がしたが、今まで戦ってきた敵と比べれば、そこまで苦戦することにはならなそうだ。

「……いや、そんな簡単にはいかないか」

 しかし、その甘い考えはすぐに改めさせられることになった。

 重厚な門からこちらに向かって出てきたのは、もうすでに人間とは言い難い者たちの姿だった。

 体の一部がずり落ちて、そこから体液を流し続けているような男に、焦点が合わない状態で四足歩行で道を駆けまわる男。大きな大剣を振り回して、仲間の血を啜っている男。

『「……まぁ、代償として、どこか頭のねじを飛ばすことになるんでしょうけどね」』

 モルンが言っていた、頭のねじが飛ぶ状態。それが目の前の男たちということか。

 そんな男たちがどんな攻撃を仕掛けてくるのか、出方を窺っていると一人の男と目が合った。

 全体的にひょろっとしていて、病的な印象を受ける体。

「……ぁっ」

その男は、小さく聞こえない言葉を口にした。何を言っているのかと思って耳を澄まそうとした瞬間、その男の手のひらから先の光景が爆発した。

「は?!」

 こちらに向えられている手のひら。そこに急激に熱が集まったと思った瞬間、周囲の温度を変えるほどの爆発が俺の体を襲ってきた。

「くっ、『ハイブリザード』!」

 咄嗟に唱えた上級の氷魔法。【感情吸収】によって高められた力で放った上級魔法は、目の前に広がっていた爆発ごと凍らせるようにして、その男から後ろ数十メートルを氷塊を形成させるようにして凍らせた。

「あれ? 俺って、こんなに魔法強くなかったろ」

 ステータスとして魔力が強くなっているのは分かっていたが、ここまで強い魔法が出せるようになるものなのだろうか?

 そう考えてみて、俺はこれに似た現象を体験していたことを思い出した。

……そういえば、前に『スモーク』を使った時も過剰な量が出たな。

あの時も、【感情吸収】を使ってたし、それと同じ感じなのだろうか?

「ワンッ! ワオーーン!!」

 そして、俺の氷魔法に対抗心を覚えたのか、ポチが必要以上に地面から氷柱を出現させたり、口から大量の冷気をドラゴンのブレスのように吐きまくったりしていた。

 その様は神話で聞いたことある以上の暴れっぷりで、一部を氷の世界に変えていた。

「ウォン!!」

 そして、俺が視線を向けているのに気がつくと、ポチは得意げにそんな声で吠えていた。

 どうやら、氷魔法においては負けたくないというプライドがあるみたいだった。

 張り切ったポチのおかげで、一気に敵が減っていくのが分かった。

 ……もう少しポチを煽れば、一気に敵を殲滅できたりするのかな?

「あ……あっ……ははっ、はっ!」

 そんな事を考えていると、どこか聞いたことのある嫌な声が聞こえてきた。呼吸を荒くしながら、どこか壊れたような笑い声。

 その声がする方に視線を向けて、俺は一瞬言葉を失っていた。

「……ギース、なのか?」

 金髪をしていたはずの髪色は、その上から泥でも被ったように土色が混じっていて、肌はボロボロになっていた。片方の耳が溶け落ちたように無くなっており、腕には激しい掻き傷によって、膿んだような傷跡が残っていた。

「アイク、お前アイクだろ……ははっ、お前のせいで、すべて失ったんだ、おまっ、お前のせいでぇ!!」

 ギースは頭を激しくバリバリと掻きむしって、ボロボロになった爪に赤い液体をつけていた。

「ころ、殺せるっ、お前を……あの時からっ、ずっと、ミノラルを滅ぼしてっ、お前のせいでっ」

 ギースは俺と話しているようで、会話をしていなかった。俺が目の前にいることは分かっているのだろうけれど、ずっと自分の中の何かと話しをしているようだった。

 焦点もあわず、情緒がおかしくなったように変なところで声が大きくなる。急に黙ったと思ったら、笑い始めて口の端からは涎を垂らしていた。

「……壊れたのか」

 頭のねじが数本飛んでいる。それと代償に手に入れた力は、ただ俺を殺すためだけの力みたいだった。

「こ、壊れるのは、おまえだっ! いや、もう、壊れているっ、せ、世界がぁっ、お、おかしいんだっ」

 俺はその痛々しい姿を見て、少しだけ目を逸らしてしまった。

直視するのも躊躇うような姿になってしまったギース。

 おそらく、もう普通の人間に戻ることはできない。それならせめて、俺が引導を渡してやるべきだろう。

 俺はそんな覚悟を決めて、逸らした視線の先を再びギースへと向けたのだった。

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