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第169話 戦力差

「お、おいっ! なんで、フェンリルがこんな所にっ! ぐわぁあ!!」

「きゅ、急に竜巻がっ! うわぁああ!!」

 人工的にスキルや魔力を増強されたモンドル王国の戦士たち。確か、エリアZにいる人間は、危険度が高いから隔離されていると聞いていた。

 つまり、それだけ街中で暴れられでもしたら胸囲になるということなのだろう。

「ワオーーン!!」

「『転移結界魔法』『サイクロン』」

 姿の大きくなったポチが地面を強く叩くと、家屋を破壊するくらいの規模の氷柱が地面から突き出てきて、その男たちを一蹴した。

そして、その近くでは、結界を用いたリリの魔法で大規模的にそれらの戦士を吹き飛ばす。

 力技すぎる二人の攻撃は、門から出てきたばかりのモンドルの戦士たちを見事に蹴散らしていた。

「くそがっ! 【剣技】!」

 それでも、人工的にスキルを無理やり付加させたというだけあって、弱いと言うようなことはなかった。

「【剣技】」

 俺は興奮状態で切りかかってきた男の剣を、同じスキルを使って弾き飛ばした。

 勢いよく振り抜かれたはずの剣は、気がつけばその男のはるか後方にまで飛ばされていた。

「は?」

 男は自分の手元から剣が消えていたことを理解できずに、ただ棒立ちになっていた。

 さらなる強さを求めて実験体となることを望んだ男たち。そんな割合が圧倒的に多いエリアZの住人からしたら、軽くいなされたということが理解できないのだろう。

 目をバキバキに見開いて、精神状態も不安定そうに見える。

「ふんっ!」

 俺が少し力を入れて切りつけると、男は何が起きのかも分からないまま、その場に倒れ込んだ。

 まだ戦闘が脳内で続いているのか、その目は俺に切りかかって来た時と同じ目をしていた。

「それにしても、この人数となると面倒だな」

 門から出てきた数十人の男たち。それが門からどんどんと出てくるので、最終的に何人になるのかは想像もできない。

戦場を笑顔で駆け巡り、目の前の俺たちや『モンドルの夜明け』に向かって走っていく男たち。

 それを止めることを任された以上、手加減をしている暇はない。

「【肉体支配】」

そのスキルを使用した瞬間、真っ赤な丸い形をしたバルーンが何もない所から無数に生まれた。

ずっとそこにあったかのように、当たり前のようにその場に浮かぶ不気味な存在。

 急に現れたそれを気にしたところで、すでに目にそれが入った時点で逃れる術はない。

 そして、それは突然破裂して、それを合図にするように俺の周りにいた数十人の男の動きが止まった。

 それを確認して、俺は【感情吸収】を発動してから、一人の男の前に立った。

「試したいスキルがあったんだよな……【感情共有】」

 俺は、以前に【クラウン】を発動したときに、いくつか新たなスキル手にしていた。あまり試すことができなかったのだが、この機会に浸かってみることにするか。

【感情共有】。文字通り、一定範囲にいる感情を共有できるというスキル。一見、ただのなんも変哲がないスキルのように見えるかもしれない。

 でも、このスキルは他のスキルと併用することで、絶大な効果を発揮する。

「【精神支配】」

 俺が一人の男に【精神支配】のスキルを使用すると、恐怖心のキャパを超えたのか、目の間にいた男の日がぎゅるんと回り、白目になった。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」」」

 そして、それと同時に断末魔のような叫び声をあげた。

それは、目の前の男だけには留まらず、【感情共有】を受けた数十人の男たち全員の声だった。

 次々に、常軌を逸するような悲鳴を上げて倒れていく光景。そして、その中心にただ一人立っている男がいる。

 ……いや、さすがに目立ち過ぎだろ。

「ひぃぃっ!」「あ、悪魔がいるなんて聞いてないぞ!」「こ、ころ、殺されるっ!」

 戦闘狂だと言われていた男たちは、俺の戦いを見るなり、尻尾を巻いて逃げる者たちが出始めた。

 その恐怖の感情は【感情吸収】によって、俺の力となって……なんか、この戦い方って本当に悪魔みたいじゃないか?

 そんな事を一人で考えながら、俺たちはそれでも向かってくる男たちをなぎ倒していった。

 戦いながら感じていたことは、相手が想像よりも強くはないということだった。

 一撃の攻撃は確かに重くて、素人のそれとは違う。

ただ、スキルやただ魔力に任せるだけの一撃は、実際の戦闘経験を積んできた俺たちの前には、そこまで強いアドバンテージではなかった。

 このままいけば、案外簡単に押さえ込むことができるかもしれないな。

 しかし、そんな俺の甘い考えは、すぐに改めることになるのだった。

 突然、街の上空に向けて、再度空砲が鳴らされた。空気を揺らがすほどの大きな音は一発、二発と立て続けに鳴らされて、その余韻を感じる間もなく三度目の空砲が鳴らされた。

「三度目、か」

 おそらく、二度の空砲を鳴らしたのに、助けが来ないから焦ったのだろう。その空砲は、より強い戦士を戦場によこせと言っているように聞こえた。

 戦闘が始まってそこまで時間が経っていないというのに、すでに最終兵器の戦力を放出しようとしている。

どうやら、それだけ王城の方を追い込んでいるみたいだ。

 そして、その三度目の空砲は、ある人物との久しぶりに対面を意味するものだった。

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