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天才剛毛ロリ童女を添えて~魔法使いの街もあるよっ!




 広く、大きな空。
 照りつける太陽。
 雲一つない空、というか、雲は下にあんのだが。

「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」

 こんにちは、ジンです。
 俺たちは魔王島から何とか、からがら逃げ出し、巨大な豪華帆船その甲板で一時の楽園を謳歌していたのですが…。
 人生とはままならないもので、船の修理を条件に発進したこの帆船で、俺はそんな面倒なこと乳山に押し付け度重なる戦の休息にと、まあ堂々とサボっていたわけですが、それがいけなかったのか、それともヴォックスの攻撃が予想以上に響いて、俺ら程度の修復じゃあどうあがいたって間に合わなかったのか…。端的に言えば。
 ――絶賛、落下中です。

「掴まれェ! 振り落とされんなよ乳山!!」
「分かっている! 分かっているが、ぐあああ!!」
「乳豚が消えちゃったわ! ダーリン!」

 んなことは分かってる。乳山、ココからは見えねーが船体の後ろ側へと消えていった、大丈夫だ、向こうは船長室がある何とかするだろう。にしても魔力炉のヤロー、こんなに深いダメージを受けてんならもっと早めに教えるなり着陸するなりしてから壊れやがれ、こんなもん一番最悪な壊れ方だぞ!
 船は傾き振動し、見る見るうちに高度を下げていく。
 クソッ! 何だっていつもこんな事になるんだ! 魔王城から抜け出し、魔王島からもギリギリやっとの思いで逃げ出し、せっかく掴んだ一時の楽園だったのによおおおお畜生ォ!!
 そんなことを思うが、裏切るように船は分厚い雲の中へと俺たちは深く、深く沈み込んでいく。

「クソッ! ヤベ―ぞ! なんにも見えねぇ、ルウ居るか!」
「私はいつもダーリンと一緒にいるわよ♡」

 ルウは大丈夫そうだ、実体がないコイツに風やら重力やらの物理的なもんは影響しないか。
 それよりも、このままだと雲を抜けた先がもし地面だった場合、俺たちはこんな高さから叩きつけられることになっちまう、海、湖でもいい、とにかく無事に着陸できそうなところ来い!!
 深く濃い雲を抜け、視界が開ける――。
 視界に飛び込んできたのは辺り一面の<緑>。

「マジかよ!」
「おい! まずいぞ! このままだと地面に叩きつけられてしまう!!」

 後ろから乳山の声が聞こえる、予想通りしぶてー野郎だな。
 地上まではおよそ…何メートルだ? 分かんねーがとにかく死ねる高さってことは明らかだ、チッ、何か考えろ、魔王城からやっと抜け出したんだ、こんなところで死ねねーぞ!!
 ――ん? 辺り一面の緑、だがその中心、俺らが今から落ちようとしている、その落下地点には、灰色のなにか。う、うそだろ…。

 今考えうる中で一番最悪の落下地点、灰色のそれは、――――街だった。

「乳山!! まずいぞ、街だ! 街に突っ込むぞ!!」
「な、何!? と、止めろ! 何とか止めなければ!!」
「ねえ、ダーリン、何をそんなに慌てているの? 街に突っ込んだら何がいけないの?」

 イかれてんのか! ルウは心底不思議そうな顔でそんなことを聞いてきた。もう、こいつは、後回しだ! だが、残念だが乳山の意見は現実的じゃない、軌道を逸らそうにもどうにもならない、このまま街に落下するのは時間の問題だろう。問題は、俺たちがどう生き残るか。
 街の方を見ると、それは広大な平野に円を描くように、まるで城壁のような頑丈な塀で囲まれ、中心から少し外れたところに大きな、青を基調とした城が立てられ、さらに、一つ一つの建物はレンガ造りの至って平凡な様相だが、ところどころに丸い球体や、三角の何の素材か見当も付かない物で出来た用途不明の謎物体がついていたり、あれは…何やら屋根の上でひらひらと白い何かが付いているかと思ったが、あれは人のような影が浮かび、そして移動しているようだった。なんだ、あの街は、人間の街は何処もあんな感じなのか!?
 俺の思考を奪うほどの不思議要素に驚嘆していると、城壁のような塀の上からいくつも設置された細長い棒状の物体がその場でぐるりと回り、そしてこちらに向かって棒状の何かは持ち上がると、先を向け停止した。
 …なんだかものすごく嫌な予感がする。

〔ピー、縺?∴縺翫°ジン…ジン……〕
「変態ロボ! オメーか!!」
〔ピー、縺ゅ>縺? 私が、軌道を……逸らしますすすす、左側に見える、湖に飛び込ん…でください〕

 言われて左を見ると、街のすぐ横、確かに小さいが湖が見えた。よし、よくやった、このロボ野郎お手柄だ!

「乳山! 聞いたか!」
「ああ、あの湖だな!」
〔では、軌道を逸らします、三、二、い〕

 ――――突然、鋭い光が走ったと思うと、その光は上空で落下する巨大な船に到達し、船体に穴を空け、船の後方まで貫くと爆発音を轟かせる。
 おいおいおいおい! 何しやがる!!
 街の塀に取り付けられた細長い棒からは、光が光ったと思うと、再びこの船体に穴を開ける。

〔シ、シシシシシシシステム…縺代%〕
「まずい、まずいぞ! もうほんとに街に落ちる!!」

 俺たちの乗った船はその速度を上げながら街に向かって猛スピードで落下していく。街が近づき、徐々に、視界の全てがその街並みに占領されると。

「「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝!!!!」」

 鋭く、その市街地に落下する――――。

 直前。俺たちは街の上空で、まるで水の中に落ちたときのように一瞬減速し、そして何か、膜のようなものに船はぶつかった。膜はドーム状に街を囲む塀から出ているようで、そこに衝突すると波打ち、船の侵入を防いでいた。
 これは、結界か!
 だがそれも一時的なもので、俺たちを乗せた船は重力により全体重がその結界に乗ると、そのまま結界は砕け散り、再び船は支えを失い街の中、中心街よりも少し下の通りに落下する。
 振動と衝撃、轟音を響かせ、キレイに舗装された石畳にその巨大な船体を預ける。船首は木材がはじけ飛び、その衝撃でバウスプリットはもちろん船底、船尾までも大きく散らすと、そのままレンガ造りの家々をなぎ倒し、船は、沈黙した。
 同時に、俺は暗い闇の中へと沈んでいった。

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